東京都難病・がん患者就業支援奨励金 3つの制度比較
室谷さん、今日は「東京都難病・がん患者就業支援奨励金」について聞かせてください。名前からして「難病やがんの患者さんを雇っている会社がもらえる奨励金」ってイメージですが、正確にはどういう制度なんですか?
そうですね、方向性はあってます!ただ少しだけ補足すると、これは「雇ってさえいれば OK」という単純な制度じゃなくて、治療と仕事の両立に向けて具体的な支援に取り組む企業に対して、奨励金を支給する制度なんです。東京都が独自に設けた制度で、国の助成金とは別物です。
なるほど、「取り組む姿勢」が評価されるわけですね。どんなことをすれば「取り組んでいる」と認めてもらえるんですか?
たとえば、通院スケジュールに合わせたフレックスタイム制度の導入、在宅勤務やテレワーク環境の整備、治療のための特別休暇の新設、復職支援プログラムの策定……こういった対応を会社として整備して、実際に運用することです。「就業規則に書きました」だけじゃなく、「実際にこの社員を支援しましたよ」という実態が必要なんですよ。
ちょっと待って!それって結構大変じゃないですか?!
まあ、ゼロから整備するとなると準備が要りますね。でもその代わり、奨励金の金額はかなり手厚いんです。ざっくり言うと1人あたり最大70万円、さらに制度を新しく作ったら最大30万円の加算もあるので、うまくいくと1案件で最大90万円をめざせます。
奨励金が「採用奨励金」「雇用継続助成金」「制度導入加算」の3種類あるとのことで、それぞれ教えてもらえますか?
もちろん!この制度は大きく2つの柱があります。ひとつが「採用奨励金」——難病やがんの患者を新たに雇い入れた場合。もうひとつが「雇用継続助成金」——在職中の社員が難病・がんを発症して休職した後、復職させた場合です。
はい。そして両方とも、週の所定労働時間によって支給額が変わるんです。具体的にはこんな感じです。
| 区分 | 週20時間以上 | 週10〜20時間未満 |
|---|
| 採用奨励金(雇い入れ) | 70万円/人 | 45万円/人 |
| 雇用継続助成金(復職) | 70万円/人 | 45万円/人 |
採用も復職も同じ金額なんですね。週10〜20時間でも45万円もらえるのは、パートでも対象になるってこと?
そうです!週10時間以上であれば対象になりますが、週10時間未満のスポット的な就労は対象外です。一定の雇用継続をしてもらうことが前提なので、最低でも6か月以上の雇用継続が必要なんですよ。
はい。さらに、「雇用継続助成金」のほうは中小企業事業主のみが対象という制限があります。大企業は採用奨励金だけ使えるイメージですね。
あ、それは気をつけないといけないポイントですね。で、制度導入加算はどういうものですか?
採用奨励金や雇用継続助成金の申請に「同時に」、治療と仕事の両立に配慮した勤務制度や産業保健スタッフへの相談体制を新たに導入した場合に、1制度あたり10万円、最大3制度まで30万円の加算が受けられます。「既にある制度」は対象外で、あくまでも「新設」することが条件です。
| 加算項目 | 金額 | 上限 |
|---|
| 制度導入加算(勤務制度・相談体制等の新設) | 10万円/制度 | 最大3制度・30万円 |
つまり最大で70万円+30万円=100万円……いや、90万円と言ってましたね。
あれ、混乱させてしまいましたね(笑)。DB上の最大支給額表記では90万円とされていますが、実際には採用奨励金70万円+制度導入加算20〜30万円という組み合わせが想定されていて、上限額は制度の組み合わせや公募要領の改定によっても変わります。最新の金額はTOKYOはたらくネットで必ず確認してください。
ありがとうございます。では、次は申請できる企業の要件を詳しく教えてください。
どんな会社でも申請できるわけじゃないと思うんですが、どんな要件があるんですか?
まず大前提として、東京都内に事業所を有する企業であることが必要です。本社が他県でも、東京都内に事業所があって、対象の社員がそこに勤務しているなら OK です。
業種はほぼ制限がありません。農林水産業から製造業、情報通信業、医療・福祉まで、ほぼすべての業種が対象になっています。規模も、採用奨励金については大企業も申請できます。
緩いというより、「取り組みの中身」で審査するから、業種や規模で切らなくていいという設計なんだと思います。ただし、具体的な要件はいくつかあって——
- 難病またはがんの患者を週所定労働時間10時間以上の労働者として新たに雇い入れること
- 雇入れ時に本人と話し合いを行い、治療と仕事の両立に向けた「支援計画書」を策定すること
- 支援計画に基づき、合理的な範囲内で必要な配慮を実施すること
- 6か月以上継続して雇用すること
- 対象の労働者が東京都内の事務所に勤務していること
- 雇入れ翌日から起算して2か月以内に「支援計画書」を提出すること(期限厳守!)
2か月以内の支援計画書の提出!これは見落としがちそう…
これを逃すと申請が無効になるので、雇い入れたらまず最初にやることが支援計画書の提出です。「6か月後に申請すればいい」と思っていると、期限が過ぎてしまうケースが多い。ここが一番のつまずきポイントですよ!
対象となる「難病」って、どの疾患でもOKなんですか?
指定難病に限られています。難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)による難病、障害者総合支援法による難病、東京都難病患者等に係る医療費等の助成に関する規則による難病の3種類があります。対象疾患の一覧はTOKYOはたらくネットのページにPDFで掲載されているので、確認できます。がんについては疾患種別の制限はなく、がんであれば対象になります。
つまり「どんながんか」は問わないけど、「難病は指定難病のみ」ということですね。これで申請資格の基本はわかりました。申請の流れも聞いていいですか?
東京都難病・がん患者就業支援奨励金 申請の流れ
実際に申請しようと思ったら、何から始めればいいんですか?
申請の流れは大きく5ステップです。特にステップ3の「支援計画書の期限」が命なので、そこだけは意識してください。
GビズIDの取得(Jグランツ電子申請を使う場合) JグランツはGビズIDのアカウントが必要です。取得には2〜3週間かかることがあるので、早めに準備しておきましょう。郵送・持参で申請する場合はGビズIDは不要ですが、電子申請の方が書類のやりとりがスムーズです。
対象者の雇入れ または 復職支援の開始 難病・がんの患者を新たに採用するか、在職中の社員が休職後に復職する際にサポート体制を整えます。
雇入れ(復職)翌日から2か月以内に「支援計画書」を提出 東京都産業労働局に様式第1号「支援計画書」を提出します。これが最重要の期限です。郵送(簡易書留等)・持参(要事前電話予約)・Jグランツ電子申請のいずれかで提出します。提出先住所
東京都新宿区西新宿2-8-1 東京都庁第一本庁舎21階北側。
6か月以上雇用継続後、支給申請書・実績報告書を提出 支援計画に基づいて雇用を継続した後、様式第2号「支給申請書」と実績報告書を提出します。制度導入加算を申請する場合は、この段階で新設した制度を証明する書類も合わせて提出します。
審査・奨励金の支給 要件を満たしていると判断された場合、奨励金が支給されます。週20時間以上なら70万円、週10〜20時間未満なら45万円。制度導入加算があればさらに加算されます。
ステップ3の「2か月以内」という期限は、採用だけじゃなくて復職のケースでも同じですか?
同じです。復職の場合も、復職させた翌日から2か月以内に支援計画書を提出する必要があります。「復職後は本人も大変だから後でいいや」と思っていると手続きを忘れがちなので、雇入れ・復職と同時に支援計画書の提出をスケジュールに入れておくのが鉄則ですよ。
わかりました!次は、審査に通るためのポイントも教えてもらえますか?
- 支援計画書の具体性: 「本人と話し合いをして、こんな配慮をする」という内容が具体的に記載されているか
- 実績の証明: 6か月以上の雇用継続が実際に行われていることを証明する書類(勤務記録、給与支払い実績など)
- 制度導入の実態: 制度導入加算を申請する場合、就業規則の変更が労働基準監督署に届出済みかどうか
そうです。たとえば支援計画書に「通院日は在宅勤務可」「月1回の定期面談を実施」「繁忙期の業務割り当てを変更」といった具体的な配慮事項を記載することで、形式的な申請じゃないことが伝わるんです。「柔軟に対応します」みたいな抽象的な記載はNGです。
あと、制度導入加算を狙う場合は就業規則の変更がポイントになります。就業規則に治療と仕事の両立に関する制度(フレックス、短時間勤務、特別休暇等)を明文化して、常時10人以上の社員がいる会社は労働基準監督署に届出する必要があります。届出なしで「制度を導入しました」は認められないので注意です。
- 就業規則に「治療と仕事の両立支援」に関する規定を明記する(フレックス/在宅勤務/特別休暇等)
- 管理職向けに難病・がんの理解促進研修を実施し、参加記録を残す
- 産業医または社外の保健スタッフと連携体制を構築しておく
- 相談窓口担当者を任命しておく(書類上に記名できるようにする)
- 支援計画書は雇入れ前から草稿を作っておく
研修の参加記録まで残しておくんですね!証拠書類の準備が大事なんだ。
書類の不備で差し戻しになるケースが多いので、「やった」だけじゃなくて「やった証拠を残す」という意識が必要です。チェックリスト(様式あり)を活用するのもおすすめですよ。
ちなみに、申請から支給まで大体どのくらいかかりますか?
雇入れ・支援計画書提出から6か月以上の雇用継続があってから支給申請なので、早くても採用から半年以上かかります。さらに審査の期間があるので、採用から奨励金受取まで8か月〜1年程度はみておくのが現実的ですね。
長いですね!でも最大90万円ともなれば、十分待つ価値はありそう。では、経費について整理してほしいんですが、この奨励金は何かに使途制限はあるんですか?
「奨励金」って書いてありましたけど、もらったお金の使い道に制限はあるんですか?
基本的に、この奨励金は定額の助成金として支給されるもので、特定の経費に対する補助率というわけではありません。なので「この費用に充当した証明」は不要です。もらったお金をどう使っても自由です。
へえ、珍しいですね!補助金って普通は「この経費の2/3まで」みたいな感じですよね。
そうなんです。この制度は「こういう支援体制を作った企業への応援」という位置づけなので、定額で支給される。これは申請企業にとってはありがたいですよね。
- 同一の支給事由で国の助成金(「職場復帰支援助成金」等)を既に受給している場合、重複受給は不可
- 東京都の他の奨励金(「働くチャイルドプランサポート制度整備奨励金」「働きやすい職場環境づくり推進奨励金」等)との同一経費への重複受給は不可
- 申請前に完了した取組に係る費用(遡及不可)
- 個人(従業員)への手当や治療費は対象外
国の「両立支援等助成金」との関係はどうなんですか?
これが少し注意が必要で、同一の支給事由で重複受給できない可能性があります。具体的には「雇用継続助成金・障害者介助等助成金の職場復帰支援助成金(国事業)」と重複しないように注意が必要です。ただし、全ての国の助成金と排他的なわけではなく、別の取組・別の支給事由であれば国の助成金と東京都の奨励金を両方受給できるケースもあります。詳細は東京都産業労働局の担当部署に事前確認するのが確実です。
事前確認が大事なんですね。ではこの制度を活用した会社の例を教えてください。
事例集を見ると、さまざまな業種・規模の企業が活用しています。一例を紹介しましょう。
| 企業の特徴 | 課題 | 取組内容 | 成果 |
|---|
| IT企業(新宿区・50名)がん治療中のエンジニア1名 | 通院スケジュールと業務調整が困難で退職検討 | フレックスタイム制・在宅勤務制度を整備、就業規則改定、管理職研修を実施 | 治療継続しながらフルタイム復帰。離職率が前年比15%改善 |
| 製造業(大田区・30名)難病患者の従業員2名 | 体調の波による急な欠勤、周囲の理解不足 | 相談窓口設置、産業医との連携、難病理解セミナー開催 | 従業員同士の理解深まり、業務フォロー体制が自然に構築 |
| 卸売業(中央区・100名)がん治療後の復職希望社員 | 復職プログラムが存在せず、復職後の調整に不安 | 段階的復職プログラムを策定、短時間勤務からフェーズアップ制度を制度化 | スムーズな復職実現、制度が社内に定着 |
業種もサイズも様々ですね!でも共通しているのは「制度をちゃんと作った」ってことですよね。
そうです。制度をしっかり作り、実際に運用して、記録を残す。これが奨励金をもらうための共通点です。「なんとなくやってます」では審査は通りません。
なるほど。この話を聞いてると、奨励金をもらうためだけじゃなくて、純粋に「良い会社」になれそうな気がしてきました。
まさにそれが東京都の狙いだと思います。奨励金は「きっかけ」であって、目的は治療と仕事の両立ができる職場環境を社内に根付かせることなんですよ。制度導入後に「こんなに働きやすくなったなら、続けたい」という社員が増えると、採用競争力にもつながります。
お金をもらいながら、いい会社にもなれる。最高ですね!では最後に関連する補助金を教えてもらえますか?
東京都の雇用・障害者関連の制度で関連しそうなものをいくつか紹介しますね。
東京都が独自に設けたこの制度は、全国的にも珍しい「難病・がん患者の就業支援に特化した奨励金」です。国の「両立支援等助成金(治療と仕事の両立支援コース)」も別途あるので、国の制度と都の制度を組み合わせて最大限の支援を受けるという戦略も有効です。ただし重複受給の禁止事項があるので、事前に担当窓口に確認することをすすめます。
国の両立支援等助成金とも使い分けができるんですね。これは東京都内の事業主にとってはかなりお得な組み合わせになりそう!
その通りです。特に中小企業は雇用継続助成金の対象になれますし、制度導入加算まで取れれば相当まとまった金額が戻ってきます。それがCSR活動として会社のブランドにもなる——一石三鳥ですよ(笑)
わかりました。実際に問い合わせが多い質問を答えますね。
まず「既存の社員が難病と診断されたケースでも使えますか?」はどうですか?
使えます!それが「雇用継続助成金」のほうです。新たに採用した場合は「採用奨励金」、在職中に難病・がんを発症して休職後に復職させた場合は「雇用継続助成金」と分かれているので、自社の状況に合わせて申請してください。
「難病の社員はいるけど、まだ休職したことがない」というケースはどうですか?
それは「採用奨励金」ではなく、雇用継続助成金の対象にもなりにくいケースです。ただし、採用奨励金は「新たに雇い入れる」難病・がん患者が対象なので、既存社員への対応は別途サポートが必要かもしれません。TOKYOはたらくネットや担当窓口に詳細を確認してみてください。
「申請書類が多くて大変そう」という声もありそうですが…
確かに書類は多いですが、公式サイトに全フォーマットが揃っているので、ダウンロードして記入すればOKです。「申請の手引き(令和8年4月1日改定)」が公開されているので、それに従えば迷いません。不安な場合は事前に電話で相談するのがおすすめです。
「Jグランツで電子申請したいんですが、GビズIDを持っていません」という担当者はどうすればいい?
NG です!郵送の場合は簡易書留等の「記録が残る方法」で送ることが要件に明記されています。普通郵便では受け付けてもらえないケースがあるので要注意です。
細かいけど大事なポイントですね!では、東京都内のどの区の企業でも申請できますか?
はい、東京都内に事業所があれば23区でも多摩地域でも申請できます。ただし、対象労働者がその東京都内の事務所に「実際に勤務していること」が条件です。本社が東京でも、社員が地方の支店に勤務しているケースは対象外になりえます。
たくさんの質問に答えてくれてありがとうございました!最後に、東京都の事業主の方へメッセージをお願いします。
この奨励金は、難病やがんを抱えた社員を「支援した」という事実に対してお金が出る制度です。大事なのは「会社として、その人の治療と仕事の両立を応援しますよ」という姿勢を形にすること。就業規則の整備、支援計画の策定、管理職への教育——これらをしっかり進めることが、奨励金受給だけじゃなく、「長く安心して働ける会社」へとつながります。ぜひ活用してみてください!