最近「賃上げしないと採用できない」って声をよく聞くんですが、実際問題、中小企業がいきなり賃金を上げるのって資金的にしんどいですよね。
室谷: そうなんですよ。物価上昇で従業員も厳しいし、経営者側も利益が増えてるわけじゃないのに、という板挟みになってる会社が多いです。でも実は、賃上げに使える補助金・助成金って2026年度は過去最大規模に拡充されてるんです!
佐藤: え、ほんとに?
室谷: 政府の2026年度予算の最大テーマが「物価上昇を上回る賃上げの定着」だったので、特に賃上げ周りの支援メニューが厚くなってます。大きく分けると「設備投資と組み合わせる補助金」と「人件費・雇用と組み合わせる助成金」の2種類があるんですが、それぞれ仕組みが全然違う。
佐藤: その2種類、どう使い分けるんですか?
室谷: 機械を入れたり設備を導入して生産性を上げたい会社は補助金、パートを正社員にしたり賃金規定を整備したい会社は助成金、という感じですね。もちろん両方使える場合もあります。
佐藤: なるほど(笑)意外と整理できるんですね!
室谷: 制度の数は多いですが、自社の状況で絞ると意外とすぐ選べますよ。まず全体像を見てみましょうか。
全体像、教えてもらえますか。
室谷: 大きくは3グループですね。経済産業省が管轄する「設備投資型補助金」、厚生労働省が管轄する「雇用・処遇改善型助成金」、そして各都道府県の「地域独自の賃上げ補助金」です。
| 種別
| 主な補助金・助成金
| 窓口
| 最大金額 ||------|------------|------|----------|
| 設備投資型補助金
| ものづくり補助金
| 経済産業省
| 最大4,000万円 |
| 大型成長投資
| 大規模成長投資補助金
| 経済産業省
| 最大50億円 |
| 省力化・成長加速
| 中小企業成長加速化補助金
| 経済産業省
| 最大5億円 |
| 最低賃金引上げ
| 業務改善助成金
| 厚生労働省
| 最大600万円 |
| 非正規→正規転換
| キャリアアップ助成金
| 厚生労働省
| 1人最大80万円 |
| 職業訓練
| 人材開発支援助成金
| 厚生労働省
| 訓練費最大75% |
| 残業削減×賃上げ
| 働き方改革推進支援助成金
| 厚生労働省
| 最大250万円 |
| 雇用環境整備
| 人材確保等支援助成金
| 厚生労働省
| 最大325万円 |
| 中途採用拡大
| 早期再就職支援等助成金
| 厚生労働省
| 要件による |
| 地域独自
| 東京都・石川県・静岡県等
| 都道府県
| 200万〜1,000万円 |
佐藤: こんなに種類があるんですね。
室谷: 申請のしやすさでいうと、業務改善助成金が一番とっつきやすいです。「設備を入れながら最低賃金を引き上げる」という明確な仕組みなので、要件を満たしやすい。次によく使われるのがキャリアアップ助成金とものづくり補助金ですね。
佐藤: やっぱそうなんですね。
室谷: 一つひとつ見ていきましょう。まず一番使いやすい業務改善助成金から。
業務改善助成金、もう少し詳しく教えてもらえますか。
室谷: 業務改善助成金は、
事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げると同時に設備投資を行った場合、その費用を助成する制度です。2026年度(令和8年度)は令和8年9月1日から申請受付が始まります。
佐藤: コースによって金額が違うんですよね?
室谷: 令和8年度から3コースに再編されました。賃金を50円引き上げるコース、70円引き上げるコース、90円引き上げるコースの3段階で、最大で600万円の助成が出ます。詳細は
業務改善助成金(令和7年度)のページで確認してください。
佐藤: 補助率はどれくらいですか?
室谷: 事業場内最低賃金が1,050円未満の場合は
助成率4/5、1,050円以上の場合は3/4ですね。地方の賃金水準が低いエリアの事業者にはかなり手厚い。
佐藤: POSレジとかもOKですよね?
室谷: はい、POSレジ、DXツール、機械設備など幅広い設備が対象です。コンサルティング費用も一部対象になります。
佐藤: 従業員が1人でも使えますか?
室谷: 雇用保険の被保険者が1人以上いれば使えます。ただし、雇入れ後6ヶ月を経過した労働者の賃金を引き上げる必要がある点は注意してください。
- 令和8年度の申請受付開始は令和8年9月1日から
- コースは50円・70円・90円の3段階(令和8年度から再編)
- 助成率は3/4〜4/5(最低賃金の水準によって変わる)
- POSレジ・DXツール・機械設備・コンサルティングが対象
- GビズIDの事前取得が必須(申請に2〜3週間かかる)
ものづくり補助金って賃上げと関係あるんですか?製造業の補助金ですよね?
室谷: よく誤解されるんですが、「ものづくり補助金」は製造業だけじゃないです。正式名称が「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」でサービス業も全部対象なんですよ(笑)
佐藤: えっそうなんですね!知らなかった。
室谷: 賃上げとの関係なんですが、この補助金は
賃上げを実施すると補助上限額が上がる加点があります。21次公募では最大4,000万円、補助率は1/2〜2/3。賃金引上げ計画を提出して、採択後に実際に賃上げを達成すると優遇されます。詳細は
ものづくり補助金のページで。
佐藤: 採択率ってどれくらいですか?
室谷: ざっくり40〜50%程度ですね。事業計画書の質が肝心で、加点項目をうまく使うのがコツです。賃上げ要件を満たすことで優先採択される可能性があるので、「どうせ賃上げするなら補助金も取ろう」という発想で使う会社が多いです。
佐藤: 設備投資の予定がある会社には一石二鳥ですね!
室谷: まさにそうです。「賃上げしながら設備も新しくしたい」というケースにはかなり効果的です。
さっきの表に「最大50億円」って書いてあって目が止まったんですが、これはどんな会社が使えるんですか?
室谷: 大規模成長投資補助金ですね。中堅・中小企業やスタートアップが、賃上げに向けた省力化・大規模設備投資をするための補助金です。第5次公募(令和7年度補正予算)では補助上限が最大50億円。詳細は
こちらで確認できます。
佐藤: マジですか、50億円!
室谷: そうなんです(笑)ただ補助率は1/3以下なので、自己資金もそれなりに必要です。工場の拠点新設や大規模な自動化設備を導入する中堅企業向けですね。
佐藤: 「省力化→人件費余力→賃上げ」というサイクルを作るための補助金なんですね。
室谷: まさにそうです。生産ラインの自動化でコストを下げて、その分を賃金に回す、というモデルです。第4次公募は
こちらのページでも確認できます。
中小企業成長加速化補助金というのも気になります。
室谷: これは「将来の売上高100億円を目指す中小企業」が対象で、補助上限が最大5億円、補助率1/2以内です。
詳細ページにあります。
佐藤: 申請要件が特殊そうですね。
室谷: 「100億宣言」をポータルサイトに公表していることが前提で、宣言の公表手続きに2〜3週間かかります。大胆な成長投資と賃上げを同時に実現したい意欲的な企業向けですね。第2次公募が対象です。
非正規社員を正社員にしたい場合はどうなりますか?
室谷: それはキャリアアップ助成金の出番です。有期雇用の方を正社員に転換すると、1人あたり40万〜80万円(重点支援対象者の場合)が支給されます。
佐藤: 重点支援対象者って何ですか?
室谷: 雇い入れから3年以上の有期雇用労働者や、母子家庭の母等のことです。この場合は1人80万円(大企業は60万円)、それ以外は40万円(大企業30万円)ですね。
佐藤: 既に働いている社員の賃上げにも使えますか?
室谷: はい、「賃金規定等改定コース」を使えば、既存の正規社員の基本給を2〜3%以上引き上げた場合にも助成が出ます。非正規の正社員化と既存社員の賃上げ、両方のルートで使えるのがキャリアアップ助成金の強みです。
佐藤: 申請の注意点は?
室谷: キャリアアップ計画書を転換の6ヶ月前までに提出しないといけないので、「転換してから申請しよう」は手遅れです。計画的に動くことが一番大事です。
社員のスキルを上げて生産性向上→賃上げというルートもありますよね?
室谷: 人材開発支援助成金がそれです。2026年度は「設備投資助成」が新設されました。訓練修了後に機器・設備を購入してさらに賃金を引き上げると、設備購入費用の50%(最大150万円)が助成されます。
佐藤: 訓練と設備の両方!
室谷: そうです。45歳以上を対象にした「中高年齢者実習型訓練」も新設されていて、経費助成率60%、賃金助成800円/時、OJT実施助成10万円/人という手厚い内容です。シニア人材の活用と賃上げを同時に考えている会社には使いやすいですよ。
佐藤: 「人への投資→スキルアップ→賃上げ」という持続的なサイクルが作れる。
室谷: まさにそのとおりです。
「残業を減らしながら賃上げ」という会社向けの助成金はありますか?
室谷: 働き方改革推進支援助成金がそれです。時間外労働の縮減や年次有給休暇の取得促進に取り組む中小企業に、その費用の一部を助成します。
佐藤: 建設業や運送業の「2024年問題」が続いている業種にも関係ありますか?
室谷: かなり関係ありますよ。時間外労働が長い業種(建設・自動車運転・医師等)への支援が継続されています。2026年度は対象労働者の賃金を5%または7%増加させた場合の加算額も拡充されました。
佐藤: 残業を減らしながら賃金も落とさないというのができるんですね。
室谷: それができるから、従業員の満足度も上がって定着率も改善するという好サイクルに入りやすいですよ。
雇用環境を整えながら賃上げする制度もありますか?
室谷: 人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)があります。複数の雇用管理制度や作業負担を軽減する機器等を導入して賃上げを行った場合、最大325万円が支給されます。
佐藤: 具体的にどんなことをすれば対象になりますか?
室谷: ①賃金規定制度、②諸手当等制度、③人事評価制度の導入で50万円、④職場活性化制度や⑤健康づくり制度で25万円、⑥作業負担を軽減する機器導入で経費の62.5%という構造です。複数導入すると加算されていきます。
佐藤: 採用と定着も支援してくれるんですね!
室谷: そうです。人が来ない会社が賃上げだけしても採用は改善しにくい。雇用環境を整えながら賃上げする、というアプローチが2026年度は特に重視されています。
国の補助金以外に、都道府県独自のものもあるんですか?
室谷: あります!東京都の「経営基盤強化事業助成金(賃上げ重点コース)」は、賃上げを前提に最大800万円、補助率は中小企業3/4・小規模事業者4/5と手厚いです。
佐藤: それは国より補助率が高いですね。
室谷: 石川県だと「賃上げに向けた省力化投資支援事業補助金」があって最大300万円、補助率1/2。4%以上の賃上げ計画が条件です。静岡県は「中小企業等収益力向上(賃上げ環境整備)事業費補助金」で最大1,000万円、補助率1/2〜2/3を実施しています。詳細は
このページで確認できます。
佐藤: 都道府県によって手厚さが違うんですね。
室谷: そうです。地域によっては国の制度より補助率が高いこともあるので、必ず自分の地域の制度もチェックしてほしいですね。都道府県別のページ(例:
東京都の賃上げ支援)で地域ごとの補助金をまとめて確認できます。
佐藤: 国と都道府県の制度を組み合わせることはできますか?
室谷: 基本的にできますが、同一の経費への重複申請はNGです。設備投資費用を分けて申請する方法が一般的で、申請前に各窓口に相談することをお勧めします。
全体を比較した表を見せてもらえますか?
室谷: まとめるとこんな感じです。
| 補助金・助成金
| 主な内容
| 最大金額
| 補助率
| 窓口 ||-------------|--------|---------|--------|------|
| 業務改善助成金
| 最低賃金引上げ+設備投資
| 600万円
| 3/4〜4/5
| 厚労省 |
| ものづくり補助金(21次)
| 設備投資+賃上げ加点
| 4,000万円
| 1/2〜2/3
| 経産省 |
| 大規模成長投資補助金(5次)
| 大型省力化投資
| 50億円
| 1/3以下
| 経産省 |
| 中小企業成長加速化補助金
| 大規模成長投資
| 5億円
| 1/2以内
| 経産省 |
| キャリアアップ助成金
| 正社員化・賃金規定整備
| 1人80万円
| 定額
| 厚労省 |
| 人材開発支援助成金
| 訓練+設備投資
| 訓練費+150万円
| 最大75%
| 厚労省 |
| 働き方改革推進支援助成金
| 残業削減+賃上げ
| 250万円
| 3/4
| 厚労省 |
| 人材確保等支援助成金
| 雇用環境整備+賃上げ
| 325万円
| 62.5%
| 厚労省 |
| 早期再就職支援等助成金
| 中途採用+賃上げ
| 要件による
| 要件による
| 厚労省 |
| 経営基盤強化助成金(東京都)
| 設備投資+賃上げ
| 800万円
| 3/4〜4/5
| 東京都 |
| 省力化投資補助金(石川県)
| 省力化投資+賃上げ
| 300万円
| 1/2以内
| 石川県 |
| 収益力向上補助金(静岡県)
| 経営改善+賃上げ
| 1,000万円
| 1/2〜2/3
| 静岡県 |
佐藤: これだけあると迷いますね(笑)どう選べばいいですか?
室谷: 自社の状況で絞ってみましょう。
複数の制度を組み合わせることもできますか?
室谷: できます。例えば「業務改善助成金でPOSシステム導入しながら最低賃金引上げ」と「キャリアアップ助成金でパートを正社員転換」を同時並行でやる会社は実際に多いです。管理は大変ですが、うまく組み合わせると補助金の総額がかなり増えます。
申請で一番重要なポイントを1つ挙げるとしたら?
室谷: GビズIDの事前取得ですね。国の補助金・助成金のほとんどがGビズIDが必要で、取得に2〜3週間かかります。「申請したい」と思ったときにはもう期限が迫っていて間に合わなかった、という会社をよく見ます。
佐藤: GビズIDって難しくないですか?
室谷: 難しくないですよ。法人の場合、gBizIDのサイトで情報を入力して印鑑証明書を郵送する手順です。個人事業主はさらに簡単で、マイナンバーカードがあればオンラインで即時取得できます。
佐藤: 申請に強い専門家はどこに相談すればいいですか?
室谷: 業務改善助成金・キャリアアップ助成金など厚労省系は社会保険労務士、ものづくり補助金など経産省系は中小企業診断士が詳しいです。地域の商工会議所でも無料相談を受け付けています。特にものづくり補助金は事業計画書の質が採択率に直結するので、専門家支援は費用対効果が高いと思います。
- GビズIDを取得していなくて申請できない(事前取得が必須)
- キャリアアップ計画書を転換前6ヶ月以内に出し忘れた(NGで助成なし)
- 同一経費への重複申請(返還対象になる)
- 予算枠が先着順で締め切られた後に申請した(人気制度は早期締切あり)
- 賃上げ計画を達成できず補助金の返還を求められた
賃上げ計画未達だと返還になるんですね、それは怖い。
室谷: そうなんです。特にものづくり補助金や大規模成長投資補助金は、賃上げ計画の未達成で補助金の全額または一部を返還しないといけないケースが出てきます。「絵に描いた餅の賃上げ計画」にならないよう、現実的な計画を立てることが重要です。
- STEP1:GビズIDを今すぐ取得しておく(申請に2〜3週間かかる)
- STEP2:自社の状況(設備投資型か雇用改善型か)で制度を絞り込む
- STEP3:都道府県の上乗せ制度も必ず確認する(国の制度との組み合わせが可能)