採用・育成・定着3軸で使える厚生労働省の助成金
室谷さん、「人材育成の補助金・助成金を使いたい」って思い始めたんですが、種類が多すぎてどこから手をつければいいか全然わからないんですよ。
ですよね(笑)。実はこの分野、国の支援がめちゃくちゃ手厚いんです。厚生労働省だけでも10種類以上の助成金があって、しかも中小企業は大企業より高い助成率が設定されてるので、知らないと本当にもったいない。
国が「中小企業の人材不足を解決したい」という政策意図を持ってるからです。大企業は自社で研修部門を持てるけど、中小企業はそうはいかない。だからこそ補助率を高くして使いやすくしてるんです。
なるほど。どう分類して考えると理解しやすいですか?
私は「採用」「育成」「定着」の3軸で考えることをおすすめしてます。採用=人を入れる段階、育成=スキルアップさせる段階、定着=長く働いてもらう段階、それぞれに対応する制度が国から用意されています。
| 軸 | 代表的な制度 | 中小企業の最大助成額 |
|---|
| 採用 | 特定求職者雇用開発助成金 | 最大120万円/人 |
| 育成 | 人材開発支援助成金 | 訓練費の45〜75% |
| 育成 | キャリアアップ助成金(正社員化) | 最大120万円/人 |
| 定着 | 両立支援等助成金 | 最大81万円 |
| 定着 | 働き方改革推進支援助成金 | 最大1,370万円 |
表にするとわかりやすい!金額もかなり大きいですね。
そうなんです。しかも1つの会社でこれらを複数組み合わせて申請してる中小企業もあります。「うちは研修助成金しか知らなかった」という経営者が多いですが、実は採用・定着の制度も同時に使えるケースが多い。
組み合わせられるの!それは知らなかった。まず「育成」から詳しく教えてもらえますか?
じゃあ、一番使われてる人材開発支援助成金から解説しましょう。
助成金申請の流れ〜失敗しない8ステップ〜
厚生労働省の助成金で、従業員に職業訓練を実施した企業に対して、訓練費用と訓練中の賃金の一部を助成する制度です。令和8年度版がすでに公開されていて、いくつか改正があって使いやすくなってます。
社外のセミナーやスクール、社内でのOJT、DX関連の研修など多くの種類に使えます。コースが7つあって、それぞれ対象と助成率が違うんですよ。
もちろん。まず一番使われるのが「人材育成支援コース」で、一般的なOJT・Off-JTの訓練に使えます。中小企業の助成率は訓練費の45〜70%です。次に「人への投資促進コース」はDX・AI関連など高度訓練で助成率が最大75%まで上がります。令和8年4月から新規採用者への助成と、訓練中に別の社員が業務を代行した場合の「職務代行助成」も追加されました。
新機能が増えてるんですね!DX研修なら75%もらえるってこと?
そうです。たとえば100万円のDX研修を実施したら75万円が返ってくる計算になります(笑)。さらに「事業展開等リスキリング支援コース」は、令和8年4月から設備投資加算が新設されました。新事業に伴うスキルアップ訓練と同時に設備を入れた場合も助成対象になるんです。
それは太っ腹ですね。賃金助成ってのもあるって聞いたんですけど?
ありますよ。訓練中に通常通りの賃金を払い続けた場合、その賃金の一部も助成されます。1時間あたり800円(中小企業)が訓練時間分加算されるので、長い研修ほどトータルの恩恵が大きくなります。
- 人材育成支援コース — OJT・Off-JTの職業訓練全般(助成率45〜70%)
- 教育訓練休暇等付与コース — 有給の訓練休暇制度を導入した場合
- 人への投資促進コース — DX・AI・高度人材育成(助成率最大75%)。令和8年4月から新規採用助成・職務代行助成を追加
- 事業展開等リスキリング支援コース — 新事業展開に伴うスキル転換。令和8年4月から設備投資加算を新設
- 建設労働者認定訓練コース — 建設業向け訓練費・賃金助成
- 建設労働者技能実習コース — 建設労働者の技能向上実習
- 障害者職業能力開発コース — 障害者を対象とした職業訓練実施
建設業専用コースまであるんですね。申請手順で一番大事なポイントは?
訓練開始の1ヶ月前までに労働局へ届出を出すこと、これに尽きます。「研修が終わってから申請しよう」では絶対にダメで、事前届出なしには支給申請の資格がゼロになります。ここが最大の落とし穴です。
もちろん。あと、GビズIDを事前に取得しておかないとjGrantsで電子申請できないんです。取得に2〜3週間かかることがあるので、使いたいと思ったらすぐ動いてほしいですね。
採用段階で使える助成金ってどんなものがありますか?「なかなか採用できない」って悩んでる経営者さん多いんですよね。
採用支援で一番大きいのが「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」です。高年齢者(60歳以上)、障害者、母子家庭の母などの就職困難者をハローワーク経由で採用した企業に、最大120万円/人が支給されます。
就職困難者を採用するとお金がもらえるんですね。令和8年から要件が変わったって聞いたんですが?
令和8年5月1日以降、高年齢者(60歳以上)の扱いが変わりました。以前は60歳以上なら自動的に対象だったんですが、今後は「ハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けている」高年齢者に限定されます。ハローワークに求人を出している会社さんは、求人票に「特定求職者雇用開発助成金の対象」と明示してもらうことが重要です。
手続き的な注意点が増えたんですね。支給額はどのくらいですか?
高年齢者・母子家庭の母等を短時間以外で採用した場合、中小企業なら60万円(大企業は50万円)。身体・知的・精神障害者の場合は中小企業で120万円(大企業は100万円)。2年の助成対象期間中に6ヶ月ごとに分割支給されます。
なるほど、すぐ全額もらえるわけじゃなくて継続雇用が前提なんですね。
そこが大事です。「採用したら受け取れる」じゃなく、「採用して継続雇用してはじめて受け取れる」制度なので、採用した後の定着支援も重要になってきます。
中小企業が外国人を採用したときに使える制度もあるんですか?
あります。「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」は、外国人従業員の職場環境整備(翻訳機器の導入、通訳者の配置など)に最大80万円が助成されます。雇用保険加入の外国人が1人でもいる企業が対象なので、外国人スタッフがいるなら要チェックですよ。
これは使い勝手よさそうです。採用系を整理したところで、次は「育成」の中でも非正規社員のキャリアアップについて聞かせてもらえますか?
キャリアアップ助成金って、パートを正社員にするやつですよね?
その通りです(笑)。正式名称はそのままなんですが、令和8年度版はコースが5つになっています。一番使われる「正社員化コース」は、有期雇用やパートを正社員に転換した場合に1人あたり最大120万円が支給されます。
はい。令和8年度から「しょくばらぼ」や自社HPへの正社員転換情報の掲載で、初回に限り20万円の加算が新設されました。つまり、基本40万円+重点支援対象者加算40万円+初回加算20万円+情報公開加算20万円で最大120万円になります。
そうなんです。重点支援対象者というのは「3年以上の有期雇用」「派遣労働者」などが該当します。これに当てはまる方を転換するなら、1人で100万円超えの助成も現実的です。
人数分だけ申請できます。10人転換すれば最大1,200万円の計算ですよ。もちろん全員が重点支援対象者じゃないと最大額にはなりませんが、それでも中小企業にとっては相当な額です。
「賃金規定等改定コース」は非正規社員の基本給を規定に基づいて3%以上引き上げた場合に助成されます。「賞与・退職金制度導入コース」は、有期雇用社員に賞与制度を導入して10万円以上支給したら40万円が出ます。「短時間労働者労働時間延長支援コース」は新設されたコースで、パートの労働時間を延ばして社会保険に加入させた場合に最大75万円の助成です。「年収の壁」対応として使いやすい制度です。
- 転換前に「正社員転換制度を就業規則に明記」が必須
- 転換後6ヶ月の継続雇用を確認してから支給申請
- 転換前3ヶ月〜後6ヶ月間は同一コースへの解雇禁止
- 申請期限:転換から6ヶ月後の賃金支給日の翌日から2ヶ月以内
これを知らずに「転換してから就業規則を直そう」という会社さんが多いんですよ。そうなると助成金の対象外になってしまう。就業規則→転換→申請という順序を守ることが絶対条件です。
申請タイミングも「6ヶ月後から2ヶ月以内」とかなり厳密ですね。
この締め切りを見落とす会社さんも多い。採用時点でスケジュールに「転換から6ヶ月後の申請日」を入れておくだけで防げます。社労士と付き合いがあるなら、ぜひキャリアアップ助成金の管理も依頼してほしいですね。
採用できても、すぐ辞められてしまう…という悩みを持つ経営者も多いですよね。定着支援の助成金も充実してるんですか?
めちゃくちゃ充実してます。特に「両立支援等助成金」は育休・介護との両立支援をする企業を国が強力にバックアップしてます。令和8年度版が4月に公開されています。
大きく分けると6つのコースがあります。「育児休業等支援コース」は育休取得者が出た場合に最大60万円、「育休中等業務代替支援コース」は育休中の業務を他の社員が代替した場合に最大81万円(昨年度より増額)です。
育休中の人の仕事を誰かが代わりにやったら、その会社がお金をもらえるんですね!
まさにそうです。令和6年1月に新設されたコースです。「出生時両立支援コース(第2種)」は男性従業員の育休取得で60万円が出ます。父親が1日でも育休を取ったら対象になるんです。
1日でも育休を取ったら60万円!それは男性育休を推進する会社にはすごくありがたいですね。
国として男性育休を推進したいので、インセンティブが大きい制度になってます。さらに「介護離職防止支援コース」もあって、従業員が親の介護で離職しないよう支援プランを作成した企業に助成されます。
介護と仕事の両立支援まで!本当に幅広いですね。もう一つ、働き方改革推進支援助成金も定着に効きますよね?
効きます。
令和8年度の働き方改革推進支援助成金は最大1,370万円で、労働時間の短縮・有給取得促進・勤務間インターバルの確保などに使えます。補助率は3/4(一定条件で4/5)です。残業を減らして休暇が取れる環境にすることが、人材定着の一番の施策ですから。
| コース名 | 対象取り組み | 最大助成額 | 補助率 |
|---|
| 労働時間短縮・年休促進コース | 残業削減・有給取得促進 | 730万円 | 3/4 |
| 勤務間インターバル導入コース | インターバル制度の導入 | 600万円 | 3/4 |
| 業種別課題対応コース | 建設・運送・医療など2024年問題対応 | 1,000万円 | 3/4 |
| 団体推進コース | 事業主団体による支援 | 1,000万円 | 定額 |
1,370万円って上限はどのコースで出るんですか?
複数のコースを組み合わせた場合の合計上限が1,370万円になります。単一コースだと最大1,000万円ですね。あと、
業務改善助成金も定着に直結します。事業場内の最低賃金を30円以上引き上げて設備投資した場合に最大600万円、補助率3/4〜9/10です。賃上げ+IT化を同時にやる会社には非常に使いやすい制度です。
賃上げに助成が出るのは嬉しいですね。東京都の助成金も充実してますよね?
東京都は特に手厚くて、
東京都若者世代職場定着促進助成金は令和8年度から最大126万円まで引き上げられています。若手(概ね35歳未満)を雇用し、定着率向上のための職場環境改善に取り組んだ企業に100%助成されます。
東京都の中小企業向け支援は手厚いですよ。テレワーク関連も
テレワークトータルサポート助成金が最大250万円、テレワーク定着促進フォローアップ助成金も100万円あります。
テレワーク環境を整えると採用競争力が上がりますしね。
まさにそれが本質です。「テレワーク可能」な求人票は、地方の優秀な人材を採用するのにも効果的ですから。人材獲得コストを下げる意味でも、テレワーク導入の助成金は活用しない手はないですよ。
地方の人材確保に興味がある会社だと、他にどんな制度がありますか?
シニア層や障害者を雇用した場合の支援も充実してますか?
充実してますよ。「65歳超雇用推進助成金」はシニア雇用を推進したい会社向けの制度で、2コースあります。「65歳超継続雇用促進コース」は定年または継続雇用年齢を引き上げた場合に最大60万円(令和8年度から増額)。「高年齢者無期雇用転換コース」は50代の有期契約パートを無期契約に転換すると40万円(令和8年度から増額)が出ます。
こっちは正社員じゃなくて無期契約でもいいんですね。
そうです。賃上げや賞与・退職金の要件がないのも特徴で、「定年延長は難しいけど無期契約にはできる」という会社にも使いやすい制度です。1社あたり年間10名まで申請できます。
シニア人材の活用を考えてる会社にはありがたいですね。
障害者雇用の環境整備を支援してくれるんですね。人件費だけじゃなくて、周りのサポート体制にも使えるのは助かりますね。
採用してから定着させるまでの環境整備費用が助成されるのが、これらの制度の本質です。「補助金はものを買う時だけ」という思い込みがある経営者さんが多いですが、人事・労務系の助成金は「人への投資」全般をカバーしてますよ。
最近「DX人材を育てたい」という中小企業が増えてると思うんですが、それ専用の制度ってありますか?
増えてますね。まず人材開発支援助成金の「人への投資促進コース」が中心ですが、国が別に「地域デジタル人材育成・確保推進事業費補助金」という制度も用意しています。
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業ってのもありますよね?
ありますよ。在職者が民間の教育訓練機関で訓練を受け、その後転職した場合にキャリアコンサルティング費用や訓練費の一部が還付される制度です。企業というよりは個人向けの色合いが強いですが、「転職者採用で即戦力化」を考える会社にとっても関係する制度です。
令和7年度「年収の壁突破」総合対策促進奨励金は最大50万円の制度で、短時間労働者の社会保険適用拡大に取り組む企業が対象です。パートさんが「103万円の壁」「130万円の壁」を超えて働けるよう環境を整えた会社に助成されます。
従業員が安心して働ける環境を整えることで、会社もお金をもらえるんですね。
国が「人への投資」を強力に推進してるので、「社員が働きやすい環境を整えた」という取り組みのほとんどが何らかの助成金の対象になってると思っていいくらいです。大げさに言えば、制度を使わないことがむしろ損失です。
人材育成・採用・定着 補助金・助成金 活用マトリクス
- 採用コストを下げたい → 特定求職者雇用開発助成金(最大120万円/人)
- 訓練・研修費を補助してほしい → 人材開発支援助成金(訓練費45〜75%)
- パートを正社員にしたい → キャリアアップ助成金正社員化コース(最大120万円/人)
- 育休取得者が出た → 両立支援等助成金育休中等業務代替支援コース(最大81万円)
- 残業を減らしたい → 働き方改革推進支援助成金(最大1,370万円)
- 賃上げ+設備投資 → 業務改善助成金(最大600万円)
- シニアを長く働かせたい → 65歳超雇用推進助成金(最大60万円)
- テレワークを導入したい → テレワークトータルサポート助成金(最大250万円)
実際に申請するとき、どういう順番で動けばいいんですか?
まずGビズIDを今すぐ取得することです(笑)。取得に2〜3週間かかるので、何を申請するか決まる前から動き始めてほしいですね。
次に就業規則の整備。キャリアアップ助成金は転換前に規定が必要、人材開発支援助成金は訓練開始前に届出が必要、というように、どの助成金も「先に準備」が条件になってます。「やってから申請」は絶対にできないんです。
そうです。あとは複数の制度を同時に申請できるかどうかを確認することです。たとえば働き方改革推進支援助成金と人材開発支援助成金は、要件が重ならなければ同じ年度に両方申請できるケースが多い。組み合わせ次第で年間数百万円の助成を受けている中小企業もありますよ。
組み合わせ申請のシミュレーションってどこでできますか?
都道府県の労働局か、よろず支援拠点に相談するのが一番手っ取り早いです。「うちの状況に合う助成金を洗い出してほしい」と言えば相談に乗ってもらえます。社労士に相談する場合は、助成金の申請代行は社労士の独占業務なので、「無料で代行します」という業者には気をつけてください。
GビズIDを取得する(代表者マイナンバーカード+スマートフォンで申請、2〜3週間)
就業規則を整備する(訓練制度・正社員転換規定・育休制度等を明記)
活用したい助成金を選定する(労働局・よろず支援拠点に相談推奨)
訓練・研修の場合は開始1ヶ月前に労働局へ届出を提出
取り組みを実施する(出席簿・業務日報・賃金台帳を必ず記録)
ステップが多いですが、準備さえちゃんとすれば確実に受け取れるんですよね?
要件を満たしていれば、審査で落とされるということはほぼないです。労働保険の未払いとか、過去3年以内の解雇があるとか、そういう「共通の除外要件」に引っかからなければ大丈夫です。だからこそ、準備と記録の管理が全てと言えます。
今日は本当にたくさんの制度を教えてもらいました!全国共通の制度に加えて、都道府県ごとの独自制度も調べてみます。
ぜひ!都道府県別の補助金・助成金は
都道府県別の補助金一覧ページで地域ごとに確認できますよ。人材育成・採用・定着、どの軸からでも活用できる制度が見つかるはずです。うちの会社の人件費を、国の制度でどれだけカバーできるか、真剣に計算してみてほしいですね。