室谷さん、「大規模成長投資補助金」って補助上限50億円って書いてあって、桁が違いすぎてちょっと現実感がないんですが、これって本当に中小企業が使える制度なんですか?
本当です(笑)。補助上限50億円、補助率1/3以下という国内最大級のスケールの補助金です。令和7年度補正予算で組まれた2,000億円規模の制度で、「中堅・中小・スタートアップの賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」が正式名称です。
中小企業が50億円の補助を受けるっていうことは、投資規模はその3倍で150億円ということですか?
そうなります。ただ一般的な中小企業向けに設計された制度ではありません。投資額20億円以上(税抜き、外注費・専門家経費除く)が申請の最低ラインです。50億円補助を受けるには150億円規模の投資が必要なので、これは「中堅企業や成長フェーズのスタートアップ」向けの制度と考えるのが正確です。
投資額20億円以上という条件は相当ハードルが高いですね。どういう会社が対象になるんですか?
対象者要件は「常時使用従業員数2,000人以下の企業」です。中堅企業、中小企業、スタートアップが対象で、みなし大企業は対象外です。スタートアップについては「設立20年以内で、公募開始時点でVC等が株主」という要件があります。また最大10社までのコンソーシアム形式での共同申請も可能なので、単独では難しくても複数社連携で申請するルートもあります。
「100億宣言企業」という言葉を見たのですが、これは何ですか?
「100億円の賃上げ宣言に参加している企業」のことです。経済産業省が推進している賃上げの公約制度で、参加企業には少し有利な条件が設定されています。一般企業の投資額最低ラインが20億円以上なのに対し、100億宣言企業は15億円以上に引き下げられます。賃上げ要件も一般企業の年平均5.0%以上に対して、4.5%以上と0.5ポイント緩和されます。
賃上げ要件の年平均5.0%以上というのは、かなり具体的ですね。どういう期間で測定するんですか?
「補助事業終了後3年間の、対象事業に関わる従業員1人当たり給与支給総額の年平均上昇率が5.0%以上」という条件です。補助事業期間は交付決定日から令和10年(2028年)12月末まで。その後3年間の賃上げ実績が問われます。
補助事業が終わってから3年間も追跡されるんですね。もし達成できなかった場合はどうなりますか?
補助金の返還が求められます。この制度は「設備投資→生産性向上→賃上げ」というサイクルを確実に起こすために国が巨額の補助金を出す制度なので、賃上げが実現しなかった場合のペナルティも厳しく設計されています。申請の段階から、この賃上げをどう実現するかの計画を緻密に組み立てる必要があります。
5.0%の賃上げというのは、現実的に達成できる水準なんですか?
大型の省力化投資が実現すれば十分可能な水準だと思います。たとえば自動化ライン導入で生産効率が2倍になれば、同じ人員でも売上が大幅に増加します。その果実を賃金に還元するというロジックです。ただ、計画段階でいかに「投資→生産性向上→賃上げ」の因果関係を数値で示せるかが採択の鍵で、楽観的な計画は審査で厳しく見られます。
省力化・自動化のための設備投資が中心です。産業用ロボット、AI・IoTシステム、自動化ライン、工場の新設・増設、それに付随するシステム構築費・技術導入費などが対象です。ただし重要なポイントがあって、投資額20億円以上の計算では「外注費・専門家経費を除いた額」で計算します。この点は計画段階で必ず確認してください。
具体的な対象外経費の一覧は公募要領に詳細が記載されていますが、一般的に補助金で対象外となりやすいのは土地の取得費、汎用的な事務機器、経常的な経費(消耗品・維持費など)です。また交付決定前に発注・契約した費用は一切対象外になります。採択後に交付決定を受けてから着手するのが鉄則です。
交付決定前に工事・発注・契約を行った経費は補助対象外になります。採択の見込みが立っても、交付決定通知を受け取るまで設備の発注・工事の着手は絶対に行わないでください。
補助上限50億円というのはあくまで上限で、投資規模に応じて決まるということですよね?
そうです。補助金額 = 補助対象経費 × 1/3(上限50億円)という計算です。投資総額が30億円なら最大10億円、60億円なら最大20億円、150億円なら最大50億円(上限)という計算になります。50億円満額を得るには150億円規模の投資が必要です。
第5次公募とのことですが、今回の公募で特に変わった点はありますか?
大きな変更が2つあります。1つ目は事務局がTOPPAN株式会社から株式会社野村総合研究所(NRI)に変更されたこと。問い合わせ先のメールアドレスも seichotoushi-koubo-ext@nri.co.jp に変わっています。過去の公募で申請経験がある方も、必ず最新の公募要領をNRIの特設サイトから入手してください。
過去に申請経験がある会社は特に注意が必要ですね。もう1つは?
2つ目は、第5次公募の申請受付期間が2026年2月27日から3月27日17時までという短さです。1ヶ月の公募期間中に大規模投資計画・賃上げ計画・資金調達計画を含む申請書類を仕上げるには、事前準備が不可欠です。第5次公募には198件の有効申請があり、書面(一次)審査の結果は2026年4月15日に通知されています。
この規模の補助金としては、まずまずの応募数といえます。補助上限50億円という条件は投資規模20億円以上の企業しか申請できないので、絶対的な応募数は小規模補助金より少なくなります。ただ、審査は投資計画の質・実現可能性・賃上げ計画の具体性を中心に厳しく評価されます。応募数が少ないからといって採択が簡単なわけではありません。
事前要件確認
常時使用従業員2,000人以下か、みなし大企業に該当しないかを確認。スタートアップの場合は「設立20年以内かつVC等が株主」の要件も確認する。
投資計画の策定
投資額20億円以上(外注費・専門家経費除く)の大規模設備投資計画を具体化する。省力化・自動化の効果、生産性向上の見込みを数値化する。
賃上げ計画の策定
補助事業終了後3年間で年平均5.0%以上(100億宣言企業は4.5%以上)の賃上げを達成するための具体的なロードマップを策定する。
資金調達計画の確定
投資総額の2/3以上が補助金以外で賄われる。金融機関との融資相談・内諾取得・自己資金の確保を事前に進める。
公募要領の入手・申請書類の作成
NRIの特設サイトから最新の公募要領を入手。申請様式に従って事業計画書、収支予算書、賃上げ計画書等を作成する。
GビズIDプライムアカウントの取得
申請は電子申請のみ。GビズIDプライムアカウントが必須。未取得の場合は取得に2〜3週間かかるため早めに手続きを行う。
jGrants経由で電子申請
申請期限厳守で提出。期限直前はアクセス集中が想定されるため余裕をもって準備する。
書面審査・ヒアリング
一次審査(書面)の後、投資計画・賃上げ計画・財務基盤について審査官からヒアリングが実施される場合がある。
GビズIDが必要なんですね。これは取得に時間がかかるから注意ですね。
GビズIDプライムの取得にはgBizID(gビズID)の申請から認証まで通常2〜3週間かかります。公募開始後に慌てて申請しても間に合わない可能性があります。補助金の動向をウォッチしている会社は、公募が発表される前からIDを取得しておくのが鉄則です。
審査の核心は3つです。1つ目が「投資→生産性向上→賃上げ」のストーリーの一貫性と数値根拠です。どの設備をどこに入れると、どの工程が何%効率化され、売上がいくら増え、その結果として一人当たり給与がどう上がるかを、数字で追える形で説明できるかが問われます。
全然不十分です。2つ目が地域経済・雇用への波及効果です。この補助金は「地方における持続的な賃上げ」を政策目的としています。自社の賃上げだけでなく、地元取引先への発注拡大、地域雇用の創出数、地域経済全体への貢献を定量的に示すことが審査で評価されます。
3つ目が資金調達の確実性です。補助率1/3なので残り2/3は自己調達です。20億円の投資なら13億円以上を自前で用意する必要があります。金融機関からの融資内諾書、自己資金残高証明など、確実に調達できることを裏付ける書類を揃えることが重要です。「融資を受ける予定です」という計画だけでは審査が通りません。
投資・生産性・賃上げの因果関係を数値で明示すること、地域経済への波及効果を定量化すること、2/3以上の自己調達について金融機関の内諾を取り付けること — この3点が揃った申請書は採択の可能性が大きく高まります。
第5次公募は受付終了とのことですが、次の公募はあるんですか?
現時点で第6次公募の正式発表はありません。ただ、この補助金は令和7年度補正予算で2,000億円が確保されており、第1次〜第5次まで継続的に実施されてきた経緯があります。政府の賃上げ推進政策が続く限り、次回公募が実施される可能性は高いと見ています。
次回公募に備えて今からやっておくべきことはありますか?
3つあります。まずGビズIDプライムの取得。公募が始まってからでは間に合わないので今すぐ取得してください。次に金融機関との事前相談。20億円以上の投資に対して融資内諾を取り付けるには半年〜1年かかることもあります。銀行・信金・日本政策金融公庫との関係強化を今から始めましょう。3つ目は投資計画の概算策定です。どの設備にいくら投資して、生産性をどう変えるか、賃上げ計画と合わせた3〜5年のロードマップを経営幹部で議論しておくことが次回公募への準備になります。
賃上げ計画って、今の時点から社内で設計しておく必要があるんですね。
そうです。年平均5.0%の賃上げは、補助事業終了後3年間で累計15%以上のベースアップに相当します。これを人事・財務部門が実行可能な計画として落とし込むには、経営層の強い意思と人件費への財務的な裏付けが必要です。申請直前に「どう賃上げするか」を考え始めるのでは遅いです。
GビズIDプライムの取得は公募発表後では間に合う保証がありません。申請権があると判断したら今すぐ取得してください。取得方法は「GビズID」で検索して公式サイトへ。
投資規模は少し小さいけど似たような補助金ってほかにありますか?
目的が近い補助金がいくつかあります。
ものづくり補助金は中小企業の設備投資を支援する代表的な制度で、補助上限は最大1,250万円〜4,000万円と大規模成長投資補助金より小規模ですが、
投資額の要件がずっと低く、申請ハードルも低いのが特徴です。賃上げ要件も本補助金ほど厳しくはありません。
投資規模が数億円レベルならものづくり補助金のほうが現実的ですね。
そうですね。また
小規模事業者持続化補助金は補助上限が最大200〜250万円と小さいですが、採択率が高く手続きも比較的シンプルなので、規模の小さい企業の設備投資・省力化には向いています。
この大規模投資補助金は、ものづくり補助金と重複申請はできるんですか?
同じ経費に重複して補助金を受けることはできません。ただし異なる設備・異なる事業への投資であれば、経費が重複しない範囲で複数の補助金を活用する戦略はあり得ます。補助金コンサルタントや中小企業診断士と相談しながら、最適な組み合わせを検討することをお勧めします。
いくつか確認させてください。投資額20億円以上というのは、建物や土地も含んでいいんですか?
含みません。20億円以上の計算には「外注費・専門家経費を除いた額」を使い、土地の取得費も対象外です。省力化・自動化の設備投資が基本です。公募要領に詳細な算定方法が記載されているので、投資計画の早い段階で確認してください。
コンソーシアム形式で申請する場合、幹事会社が代理で申請するんですか?
コンソーシアム形式の場合も、各社が自社のGビズIDアカウントで申請に関与する必要があります。グループ会社や代理人が別アカウントで代わりに申請することは認められていません。この点は過去の公募でも厳格に運用されています。
スタートアップで「設立20年以内でVC等が株主」という要件がありますが、VCではなくエンジェル投資家から出資を受けている場合はどうですか?
エンジェル投資家が対象に含まれるかどうかは公募要領の定義次第です。「VC等」の「等」に何が含まれるかは必ず公募要領で確認してください。判断が難しいケースは事務局(NRI)にメールで事前照会するのが確実です。回答を書面で取っておくことで後からトラブルを防げます。
公式には採択件数・採択率は詳細に公表されていないケースが多いです。ただ補助金の性格上、投資計画の質・財務基盤・賃上げ実現可能性を厳しく審査するため、採択率は一般的な中小企業向け補助金と比べて厳しい傾向にあります。
賃上げ要件を達成できなかった場合、補助金を全額返還しないといけないんですか?
原則として返還が求められます。達成状況に応じた返還割合など詳細は公募要領に規定されています。賃上げ目標の未達は単なる「見通しの誤り」ではなく、補助金の不正受給に近い扱いになるケースもあります。申請段階で実現可能な計画を組み立てることが自社を守ることにもなります。
わかりました。規模は大きいけど、しっかり準備すれば狙える制度なんですね。ありがとうございました。
そうですね。この補助金を活用して数十億円規模の大型投資に踏み切った企業が、地域の雇用と賃金を牽引する事例が増えてほしいですね。次回公募が発表される前からGビズID取得と金融機関との相談を始めておくのが、この補助金への一番の備えです。