室谷さん、今日は「令和8年度 医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」を教えてください。名前が長くて、口に出して読むと噛みそうです。
正式名称はそれで合っています。目的は、ICT機器等の導入によって業務効率化や職場環境の改善に取り組み、生産性向上を図る医療機関に必要な経費を支援すること。その先にあるのは「効率的で質の高い医療提供体制の構築」です。
補助上限が8,000万円と聞いて二度見しました。病院向けってスケールが違いますね!
補助基準額は1病院あたり1億円、補助率は4/5。なので上限が8,000万円になります。診療報酬を扱う病院が対象なので、桁が大きいんですよ。
4/5ということは、1億円の事業なら自己負担は2,000万円。重い!(笑)
だからこそ、何が対象で何が対象外かを詰めてから動く必要があります。まずはこの制度の性格を図で見ておきましょう。
この制度の特徴ICT機器等の導入を支援
情報共有のスマートフォン、生成AIサービス、搬送ロボットなど
補助率4/5・上限8,000万円
補助基準額は1病院あたり1億円
対象は要件を満たす病院
ベースアップ評価料の届け出などが条件
業務効率化計画の策定が前提
データ提出と評価の仕組みがある
今回の基本情報では対象地域は東京都、業種は医療・福祉、従業員数の上限はなし、代理申請は不可とされています。窓口は東京都保健医療局医療政策部医療人材課です。
制度としては、国が都道府県の意向や人口規模等を踏まえて都道府県ごとの所要見込額を決め、その範囲内で対象医療機関を選ぶ仕組みです。だから他の自治体でも別の形で案内が出ていることがあります。ただ、この記事で扱う募集は東京都のものです。
入口が都道府県ごとに違うんですね。で、業種は「医療、福祉」とありますけど、クリニックもいけるんですか?
そこは注意が必要です。公表されている要件は「病院」を対象とした書き方になっています。診療所が対象に含まれるかは提示された情報だけでは判断できないので、実施要綱と東京都の案内で確認してください。次は金額の中身を見ていきます。
上限8,000万円って、どういう計算で出てくる数字なんですか?
補助基準額が1病院あたり1億円、補助率が4/5なので、1億円×4/5=8,000万円が補助上限になります。jGrantsのページにも「補助上限額8,000万円」と書かれています。
じゃあ1億円分の対象経費を積み上げたら8,000万円出る、と。基準額を超えて事業をやったら、超えた分はどうなるんですか?
そこは補助基準額という考え方なので、基準額を前提に組み立てる必要があります。基準額や上限の細かい扱いは公募要領で要確認ですが、公表されている数字はこの1億円と8,000万円です。
1億円分の経費って、スマホやインカムで到達するんですか?(笑)
それが、スマホやインカムだけでは到底届きません。搬送ロボットや薬剤自動分包機、AIを活用した業務支援サービスを組み合わせて、部門をまたぐ大きな単位で考えるからこその金額です。
対象経費に「附随する費用」ってありましたよね。地味に効いてきそうですが。
設置費用、訓練費用、効果測定費用、関連設備の改修費用まで対象です。改修にはWi-Fi環境の整備費用や、電子カルテ等とのシステム連携費用も含まれます。ここが積み上がると大きいんですよ。
あれ、でも「電子カルテの導入・更新費用」は対象外って書いてありますよね? 連携費用はOKで本体はダメ。紛らわしい!
まさにそこが分かれ目です。システム連携のための費用は対象、電子カルテそのものの導入・更新は対象外。同じ「電子カルテ」という言葉でも扱いが違うので、見積もりの段階で切り分けておく必要があります。
切り分けとなると、経理とシステム担当を巻き込まないと危ないやつだ。
そのとおりです。令和8年度中に生じる利用料も対象になりますが、令和9年度以降に生じる経費は支援できないと明記されています。年度の線引きは最初に確認しましょう。
対象になる病院の条件を一つずつ教えてください。まず何が要るんですか?
1つ目は令和8年4月1日までにベースアップ評価料を届け出ていること。そして令和8年4月1日から申請時点までに、診療報酬請求の実績があることです。
ベースアップ評価料を届け出ている=職員の処遇改善に取り組んでいる病院、というフィルターが入口になっているわけですね。
はい。加えて、その他に厚生労働省の実施要綱で定める要件を満たし、その内容が本事業の趣旨に合致していると厚生労働大臣が認めた病院であること。ここが2つ目の関門です。
大臣が認めた病院、と言われると身構えますね。何を見られるんでしょう?
細かい要件は実施要綱に書かれています。公表されている範囲では、保険医療機関コードが発行されていて、令和8年4月1日から申請時点までに診療報酬請求の実績がある病院、という整理になっています。
「令和8年4月1日から申請時点まで」という実績の期間が、けっこう際どい条件に感じます。
そうですね。逆に言えば、4月1日から請求実績が続いている病院でないと要件を満たしにくい。申請の直前になって慌てないよう、請求の状況は早めに確認しておくべきです。
あと、補助を受けたあとに何か義務があるんですよね? もらって終わりじゃないというか。
あります。定量的な効率化目標を含む「業務効率化計画」の策定と、管理者が委員長となる「業務効率化推進委員会」の設置が必要です。補助を受けた病院には、厚生労働大臣が定めるデータの定期提出と、進捗確認・評価が求められます。
計画書に委員会にデータ提出に評価まで。これは総務部門の仕事がかなり増えますね。
しかも計画は最大3年間を対象に作りますが、2年目・3年目の取組に関する経費の補助が保証されているわけではありません。そこは期待しすぎないほうがいいですよ。
ここが一番知りたいところです。実際、何が買えるんですか?
例として挙がっているのは、職員間の情報共有のためのスマートフォン、業務用インカム、患者見守り支援機器、生成AIを活用した各種業務支援サービス(AI問診や文書自動作成支援など)、薬剤・検体搬送ロボット、マセレーター、薬剤自動分包機です。
マセレーターって何ですか? 名前だけだと想像がつかないんですけど。
公表資料では対象機器の一例として名前が挙がっているだけで、詳しい説明までは書かれていません。ただ、医事部門・給食部門・清掃部門などの職員の業務効率化に資するICT機器等も対象と明記されているので、その系統の設備と考えると分かりやすいです。
診療現場だけじゃなくて、後方部門の効率化も対象なんですね。そこは意外でした。
大事なポイントです。「医療のICT化」というと診療系に目が行きますが、事務や給食、清掃といった部門の業務効率化も支援の対象なんですよ。
ソフトウェアやサービスも対象って書いてありました。サブスクの利用料はどうなるんですか?
ICT機器等にはソフトウェアやサービスも含まれます。利用料等の支払いがなければ運用できない場合は、令和8年度中に生じる利用料は対象になります。ただし令和9年度以降に生じる経費への支援は行えない、と明記されています。
えっ、じゃあ年度をまたぐサブスクは、途中から自腹になる可能性がある?
契約の組み方次第です。少なくとも「令和8年度中に生じる分」と「令和9年度以降に生じる分」を分けて考える必要があります。
で、運用・保守のランニングコストは対象外でしたよね。利用料は対象なのに、運用・保守は対象外。境界が細かすぎます!
だから「この支払いは何の対価なのか」を契約書と請求書で説明できる状態にしておくのが鉄板です。ここが曖昧だと、あとで対象外と言われかねません。
電子カルテの導入・更新費用、単なるPCの入れ替え費用、そして導入するICT機器等の運用・保守費用などのランニングコスト。この3つは明確に対象外です。
うわ、PCの入れ替えはダメなんですね。じゃあ施設系はどうです? 休憩室の整備とかも職場環境改善っぽいですけど。
施設整備費用も対象外です。例として休憩室、レクリエーション関連施設、院内保育所等の施設整備費用が挙げられています。あくまでICT機器等の導入支援であって、建物や施設を作る支援ではないんです。
了解です。で、他県のページに「令和7年度中に導入した機器等は補助対象外」って書いてありました。先に買ってから申請、は通用しない?
通用しません。原則、補助対象の決定(内示)以降に実施したICT機器等の導入費用等が対象です。順番を間違えると全額自腹になりかねないので、ここは最初に頭に入れておいてください。
対象になる経費・ならない経費- スマートフォン・業務用インカム・患者見守り支援機器
- 生成AIを活用した業務支援サービス(AI問診・文書自動作成支援など)
- 薬剤・検体搬送ロボット、マセレーター、薬剤自動分包機
- 医事部門・給食部門・清掃部門等の業務効率化に資するICT機器等
- 設置費用・訓練費用・効果測定費用・関連設備の改修費用(Wi-Fi整備、電子カルテ等とのシステム連携費用を含む)
- 令和8年度中に生じるソフトウェアやサービスの利用料
×デメリット
- 電子カルテの導入・更新費用
- 単なるPCの入れ替え費用
- 導入するICT機器等の運用・保守費用などのランニングコスト
- 施設整備費用(休憩室・レクリエーション関連施設・院内保育所等)
- 令和9年度以降に生じる経費
- 令和7年度中に導入した機器等
まず病院が「業務効率化計画」を作成し、申請書とともに都道府県に提出します。厚生労働省が都道府県から計画等の送付を受けて選定作業に入り、都道府県を通じて対象病院に伝達(内示)。その後、病院で事業を開始し、後日、病院から都道府県に交付申請という順番です。
計画書の提出先が都道府県なんですね。国に直接じゃないんだ。
はい。しかも計画書と一緒に出す申請書は、選定後に出す交付申請書とは別物です。作成・提出の要否は都道府県の任意とされているので、自分の自治体の案内を確認してください。
jGrantsのページにはログインして申請する導線が用意されています。必要なアカウントの種類や手続きは、jGrantsと東京都の案内で確認してください。
申請から事業開始までの流れ- 1
実施要綱・公募要領を確認
対象要件と経費の範囲を確認する
- 2
業務効率化計画を作成
定量的な効率化目標の設定を含める
- 3
- 4
都道府県へ計画・申請書を提出
作成・提出の要否は都道府県の任意
- 5
国が対象病院を選定
都道府県の意見や実情等を踏まえて選定
- 6
内示後に事業を開始
原則、内示以降に実施した導入費用等が対象
- 7
交付申請・データ提出・評価
成果が認められない場合は返還を求める場合がある
締切はいつですか? ここを逃したら終わりですよね。
基本情報では募集期間は2026年10月8日から2027年5月31日まで、対象地域は東京都です。締切は2027年5月31日になります。
お、けっこう長い。でも待ってください、国や他県のページには6月頃に受付開始、7月に国へ申請、8月に選定って書いてあるんですけど…時期が合わない気がする。
よく気づきました。国や他県の公表ページには別の時期の予定が示されています。公表元によってスケジュールの書き方が違うので、申請するなら東京都の最新案内を最優先で確認してください。
複数の情報を見比べると混乱しますもんね。窓口の情報が軸か。
それが安全です。和歌山県のページでは募集が終了し、内示も行われたと更新されていますが、東京はこれから。タイミングは自治体ごとに違うんです。
東京都の募集スケジュール2026年10月8日
募集開始
東京都の募集期間がスタート
2027年5月31日
募集締切
基本情報で示されている締切
令和8年度中
対象経費が生じる期間
ソフトやサービスの利用料もこの期間分が対象
内示後
事業開始
原則、内示以降に実施した導入費用等が対象
審査で見られるポイントを教えてください。何を書けば通るんでしょう?
カギは業務効率化計画です。定量的な効率化目標の設定を含めること、そして管理者が委員長となる業務効率化推進委員会を設置することが必要とされています。「頑張ります」ではなく、数字で目標を示す必要があるということです。
補助対象決定後のデータ提出項目例や、国による評価基準、業務効率化計画のひな形が国から公表されています。それに沿って作るのが早いですよ。
ひな形があるのは助かります。ゼロから考えるのは骨が折れるので。
ひな形は病院名あり・なしの2種類が公開されています。まずはひな形を埋める感覚で、自院の数字を集めるところから始めましょう。
気になるのは、目標が達成できなかったときです。お金を返せと言われるんでしょうか。
評価の結果、成果が認められなかった場合には、補助金の返還を求める場合があるとされています。ただし、災害の発生など、やむを得ないと認められる場合はその限りではありません。
ひえ〜、プレッシャーがすごい。でも、達成度を測るからこそ大きな支援が出る、とも言えますね。
そういう設計です。加えて、補助を受けた病院の取組内容やその成果は、厚生労働省から公表されます。病院名を含めて公表されると考えておいてください。
公表されるなら、院内の合意形成も必要だ。院長だけが乗り気でも進まないやつです。
まさに。だからこそ、真摯に業務効率化に取り組み、一定の成果をあげようとする病院を支援するのが本事業の趣旨だと明記されています。覚悟が要る制度です。
そこは現実を見ておきましょう。和歌山県のページには、国予算額を大幅に上回る取組意向が示されたため、補助対象となる病院数は相当程度限定され、業務効率化計画を提出しても大多数の病院は補助対象にできない見込み、と記載されています。
ええっ、大多数が対象外! 相当な競争を覚悟しないといけないやつだ。
選定は、都道府県の意見や実情等を踏まえ、国が公表している評価基準案を基に、国(厚生労働大臣)が行います。国は都道府県の意向や人口規模等を踏まえて都道府県ごとの所要見込額を決め、その範囲内で対象医療機関を選ぶ仕組みです。
枠が決まっていて、その中で選ばれる。計画書の完成度が勝負を分けますね。
はい。だからこそ、目標の数字、対象経費の積み上げ、委員会の体制を丁寧に作る必要があります。ここで差がつきます。
東京都の情報と、国や他県の情報を見比べてもいいんですか?
見比べるのは有効です。ただし金額や締切は公表元を確認しながら、東京都の案内を優先してください。実際、国や他県のページでは「1施設あたり補助上限額80,000千円」と書かれていて、東京都の基本情報では8,000万円と表示されています。同じ額を別の桁で書いているだけです。
80,000千円=8,000万円、たしかに同じだ。表記が違うと混乱しますね。
だから数字を見るときは単位まで確認しましょう。なお、他の補助金との併給が可能かどうかは、提示された情報の中に記載がないので、公募要領で要確認です。
公表元ごとの情報の見え方| 項目 | 東京都の募集(基本情報・jGrants) | 国・他県の公表ページ |
|---|
| 補助上限 | 8,000万円 | 1施設あたり80,000千円 |
| 補助率 | 4/5 | 4/5 |
| 基準額 | 1病院あたり1億円 | 補助上限額として80,000千円と表示 |
| 募集期間 | 2026年10月8日〜2027年5月31日 | 時期の異なる予定が示されているため要確認 |
| 経費の注意点 | 令和9年度以降に生じる経費は支援対象外 | 令和7年度中に導入した機器等は補助対象外 |
最後に、申請前に確認すべきことをチェックしてもらえますか?
まず自院が対象要件を満たすか。令和8年4月1日までにベースアップ評価料を届け出ているか、令和8年4月1日から申請時点までの診療報酬請求の実績があるか、保険医療機関コードが発行されているか、そして実施要綱の要件を満たしているかです。
導入する機器がICT機器等に当たるか、附随費用を積み上げられるか、電子カルテの導入・更新、PCの入れ替え、運用・保守のランニングコスト、施設整備費用が混ざっていないか。利用料は令和8年度中の分だけです。ここを仕分けします。
で、計画と体制。定量的な目標と推進委員会。うわ、やること多い!
業務効率化や職場環境の改善に取り組む病院に、ICT機器等の導入費用を補助率4/5・上限8,000万円で支援する制度です。ただし対象は限られ、計画と評価がセット。内示前に買うと対象外です。
事前準備がすべてですね。計画づくりから逆算して動きます。今日はありがとうございました!
ありがとうございました。まずは実施要綱と東京都の案内を開いて、対象要件を自院に当てはめるところから始めてください。