室谷さん、最近「水素」という言葉をよく耳にするんですが、企業が水素関連の技術開発をしたいとき、国からお金が出る制度ってあるんですか?
ありますよ! しかも今まさに公募中の制度があって、これがかなり大規模なんです。NEDOという国の研究開発機関が実施している「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」がそれで、水素の製造から利用まで、サプライチェーン全体の技術開発を対象にした委託研究事業です。
そこが一番のポイントなんです! 一般的な補助金は事業費の1/2や2/3を国が補助して、残りは自己負担ですよね。でもこれは「委託研究」という形態で、NEDOが研究開発を「委託」するため、原則として研究開発費の全額がNEDOから支出されます。自己負担がほぼゼロというのが大きなメリットです。
ほんとに?それはすごい!(笑)いったいどんな技術が対象になるんですか?
今回の2026年度第1回公募では3つの研究開発項目が対象です。項目Iの「大規模水素サプライチェーンの構築に係る技術開発」、項目IIIの「水素ステーションの低コスト化・高度化に係る技術開発」、そして項目IVの「共通基盤整備に係る技術開発」の3つです。
なるほど。水素って製造・輸送・貯蔵・利用という流れがあると思うんですけど、全部カバーしているんですね。
水素サプライチェーン全体フロー図(製造→輸送→貯蔵→利用)
NEDOは「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構」の略で、経済産業省所管の国立研究開発法人です。日本のエネルギー・産業技術に関する研究開発を推進する機関で、年間予算規模は数千億円にのぼる国内最大級の技術開発支援機関です。過去にリチウムイオン電池や液晶技術の開発も支援してきた実績があります。
そんな大きな機関なんですね! では今回の水素の事業は何がきっかけで始まったんですか?
日本政府の「水素基本戦略」がベースになっています。政府は2050年カーボンニュートラルを目標に掲げていて、水素を脱炭素社会実現の「鍵」と位置づけているんです。だからNEDOも水素サプライチェーン関連を重点投資領域として、2023年度から2027年度までの5カ年事業として実施しています。
5年間の大型事業なんですね。2025年度の予算額ってわかりますか?
公開情報によると、2025年度の予算額は64億円です。これだけの規模の国家プロジェクトだから、採択された機関には相当大きな研究リソースが確保できます。
64億円(笑)桁が違いますね。それだけお金を出すということは、相当しっかりした提案が必要そうですね。
そうですね。でも逆に言えば、採択されれば競合他社に大きな差をつけられる。次のセクションで対象技術の詳細を見ていきましょう。
3つの項目がありましたが、具体的に何を開発すればいいんですか?
順番に説明します。まず**研究開発項目I「大規模水素サプライチェーンの構築に係る技術開発」**ですが、水素等運搬船や国内受け入れ基地等の大規模海上輸送機器、水素発電等に関する各種機器の大型化・多様化・高効率化に資する技術開発です。材料の信頼性評価手法の確立や技術基準・安全基準の策定に関する研究も含まれます。
日本は島国なので海外からの水素輸入が重要な選択肢になります。次に研究開発項目III「水素ステーションの低コスト化・高度化に係る技術開発」。水素貯蔵設備、圧縮機、蓄圧機、プレクーラー、ディスペンサー等の技術開発で、国際標準・基準に関する活動も対象です。さらに航空機・船舶等への多用途適用も含まれます。
車だけじゃなくて飛行機や船にも?それは知りませんでした。
ええ、モビリティ全般への展開が求められています。そして**研究開発項目IV「共通基盤整備に係る技術開発」**は、水素社会構築に共通基盤として必要な材料・製品の品質評価、安全評価等に資する技術開発です。水素を安全に扱うための基盤技術として、どの項目にも横断的に関係します。
| 研究開発項目 | 対象技術 | キーワード |
|---|
| 項目I(大規模サプライチェーン) | 海上輸送機器・水素発電機器 | 大型化・高効率化・安全基準 |
| 項目III(水素ステーション) | 貯蔵設備・圧縮機・ディスペンサー | 低コスト化・国際標準・多用途 |
| 項目IV(共通基盤) | 材料・製品の品質評価・安全評価 | 横断的・共通インフラ |
幅広いですね。ちなみに、この委託研究は企業でも大学でも応募できるんですか?
公募要領によると、対象者は「企業(団体等を含む)、大学等、研究者・研究チーム」となっていて、かなり幅広いです。
- 企業(大企業・中小企業・ベンチャー・団体等を含む)
- 大学・大学院(国立・公立・私立を問わない)
- 国立研究開発法人・公設試験研究機関等
- 複数機関によるコンソーシアム(共同提案)
- 研究者・研究チーム
できます。ただし審査では研究実施体制の確実性が評価されるため、水素関連の技術力を持つベンチャーが大学や大手企業とコンソーシアムを組む形での応募が効果的です。NEDOは中小企業の技術開発支援にも積極的で、実施体制の中での役割が明確であれば評価されます。
なるほど。一人でやるより、チームで応募した方が有利なんですね。
そうですね。大学の基礎研究力と企業の実用化力を組み合わせたコンソーシアム提案は評価が高くなる傾向があります。対象経費の話に移る前に、技術的な要件を確認しておきましょう。
- 水素サプライチェーン(製造・輸送・貯蔵・利用)に関する技術開発テーマであること
- 競争力のあるサプライチェーン構築に資する技術であること
- NEDOが定める研究開発テーマに合致すること
- 研究開発を遂行するための十分な設備・人材・ノウハウを有すること
- 委託研究として適切な管理体制を構築できること
NEDOのテーマに合致することが条件なんですね。では実際に応募するとき、どんな経費が使えるんですか?
研究開発に直接必要な費用はほぼカバーされます。具体的にはこういう感じです。
| 経費区分 | 対象となる項目例 |
|---|
| 人件費 | 研究員・補助者・事務スタッフの人件費 |
| 設備費 | 研究用機器・装置の購入費、試作品製作費、実験設備の整備費 |
| 材料・消耗品費 | 実験材料費、試薬・ガス等の消耗品費、分析用サンプル費 |
| 旅費 | 研究打合せ出張費、学会参加旅費、海外調査旅費 |
| 外注費 | 分析・試験の外注費、計算・シミュレーションの外注費 |
| その他経費 | 特許出願費、論文投稿料、会議費 |
かなり幅広いですね。逆に使えない経費ってなんですか?
使えない経費として注意が必要なのは、既存設備の維持管理費、研究開発に直接関係しない一般管理費、飲食を伴う接待費(原則)、建物の取得・賃借費(原則)、そして他の公的資金で賄われている経費です。特に最後の「他の公的資金との重複」は絶対NGです。同じ研究テーマ・経費に対して他の補助金と二重に受給することはできません。
同一の研究テーマ・経費に対して、NEDO委託費と他の公的資金(科研費・地方自治体補助金等)を重複して受給することは禁止されています。ただし、異なる研究テーマを別の資金で並行実施することは一般的に可能です。詳細は公募要領の経費区分条項を必ず確認してください。
わかりました。それでは、実際にどうやって申請するんですか?
NEDO委託研究の申請ステップ(公募要領確認→提案書作成→Jグランツ提出→審査採択→委託契約)
1公募要領の確認 — NEDO HPの公募ページから公募要領(委託)・(補助)、基本計画、関係書類一式をダウンロードして内容を確認します。
2提案書の作成 — 研究開発計画、実施体制、スケジュール、予算計画等を記載した提案書を作成します。技術的独自性と実現可能性を明確に示すことが重要です。
3Jグランツで提出 — 「Jグランツ」(電子公募システム)上で応募申請を行います。持参・郵送・FAX・メールによる提出は原則受け付けないので注意が必要です。
4審査・採択 — 外部有識者による技術審査を経て採択が決定されます。ヒアリング審査が行われる場合もあります。
5委託契約・研究開始 — 採択後にNEDOとの委託契約を締結し、研究開発を開始します。
Jグランツは経済産業省が運営する電子公募・補助金申請システムです。GビズIDというアカウントでログインして利用します。まだJグランツやGビズIDを持っていない場合は、事前に取得しておく必要があります。GビズIDの取得には2〜3週間かかる場合があるので、応募を考えているなら今すぐ申請しておくことをおすすめします。
2026年4月28日の正午が締切ですよね。もう時間がないじゃないですか!
そうなんです、今回の公募締切は2026年4月28日(火)正午です。ただし「応募状況等により、公募期間を延長する場合があります」という記載もあるので、NEDO公式ページを定期的にチェックしてください。今回の公募に間に合わない場合は、次回公募に備えてしっかり準備することも戦略のひとつです。
NEDO事業の競争率は高い傾向があります。特に水素関連はNEDOの重点投資領域なので、多くの研究機関が応募します。採択率はテーマによって異なりますが、厳しい審査であることは覚悟した方がいいです。
- NEDOのロードマップとの整合性 — 提案内容がNEDOの水素関連技術ロードマップと整合していることを明確に示す。政策目標への貢献度の高さは重要な評価軸です。
- 産学連携・コンソーシアムの活用 — 大学の基礎研究力と企業の実用化力を組み合わせた体制。社会実装までの道筋を示せる体制構築がポイントです。
- 知的財産戦略の明確化 — NEDO委託研究では知的財産権の取り扱いが重要。提案段階から特許戦略やライセンス方針を明確にし、研究成果の実用化計画と連動させましょう。
- 既存NEDO事業との差別化 — 水素関連でNEDOが多数の研究開発事業を実施しています。既存事業との技術的な差別化ポイントを明確にし、新規性・独自性をアピールすることが採択への近道です。
NEDO側が何を重視しているかを徹底的に調べることが大事なんですね。
そうです。NEDO技術戦略センター(TSC)の公開資料や関連プロジェクトの動向を日頃からウォッチして、提案の骨格を事前に固めておくことが重要です。公募開始後に一から提案を作り始めるのは現実的に困難な1カ月の公募期間なので。
事前準備が全てなんですね。知的財産権の扱いはどうなるんですか?
委託研究で生まれた特許は、誰のものになるんですか?
NEDO委託研究では「日本版バイ・ドール・ルール」が適用されて、原則として知的財産権は受託者(研究実施機関)に帰属します。ただし、NEDOへの報告義務と、NEDOが指定する条件のもとでの実施許諾義務などが課される場合があります。
自分たちの知財になるなら、ビジネス的にも大きなメリットがあるんですね!
そうです。NEDO事業実績があると、その後の研究資金獲得においても営業上の信頼性向上にも直結します。ただし詳細な知財条項は公募要領の知的財産権条項を必ず確認してください。
わかりました。今回の公募に間に合わなかった場合、どう備えるべきですか?
2026年4月28日の締切には間に合わない、という人もいますよね。
たくさんいると思います。本事業は2023年度から2027年度までの継続事業です。今後も年度ごとに公募が実施される可能性が高いので、今から準備を始めることが大事です。
- GビズID・Jグランツアカウントの取得 — GビズIDは取得に数週間かかるため、今すぐ申請しておく
- NEDO技術戦略センター(TSC)の資料を読み込む — 水素関連の技術戦略・ロードマップを把握する
- コンソーシアムの組成 — 大学・企業との連携体制を事前に構築しておく
- 提案骨格の作成 — 研究テーマの新規性・独自性・実用化への道筋を文書化しておく
- 関連NEDO事業の動向把握 — 既存採択プロジェクトの内容を把握し、差別化ポイントを明確にする
ぜひ。NEDO公式X(@nedo_info)で公募情報が随時配信されています。事前相談は担当チームに直接メールすることもできます。
担当者に直接相談できるんですね! では、関連する補助金や類似制度と比較してみましょう。
NEDO委託研究以外にも、水素技術開発を支援する制度はありますか?
水素ステーション整備補助金は既存の水素ステーションを整備するための設備補助で、自己負担が生じる通常の補助金です。一方でNEDO委託研究は、まだ世の中にない技術を研究開発する段階の資金支援で、形態が全く違います。研究開発の「川上」を支援するのがNEDO委託研究、社会実装の「川下」を支援するのが通常の補助金というイメージです。
なるほど! 開発した技術を実装するときはまた別の補助金が使えるってことですね。それはうまい組み合わせですね。
そうです。NEDO事業での基礎技術開発から、社会実装に向けた実証事業(経済産業省の「グリーンイノベーション基金事業」等)、さらに実際の設備整備補助と、段階的な資金獲得戦略が有効です。ただし同一テーマ・経費への重複受給は禁止なので、役割分担を明確にすることが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 事業名 | 競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業 |
| 実施機関 | 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) |
| 事業形態 | 委託研究(原則、研究開発費を全額NEDO負担) |
| 補助も並行実施 | あり(補助事業も本公募の対象) |
| 事業期間 | 2026年度〜2027年度(最大2年間) |
| 技術・事業分野 | 燃料電池・水素 |
| プロジェクトコード | P23004 |
| 対象者 | 企業(団体等を含む)、大学等、研究者・研究チーム |
| 公募期間 | 2026年3月30日〜2026年4月28日(火)正午 |
| 対象地域 | 全国 |
| 公式ページ | NEDO公募ページ |
| Jグランツページ | Jグランツで申請 |
本公募の2026年度第1回公募は2026年4月28日(火)正午で締切となります。次回公募の実施時期は確定していませんが、本事業は2027年度まで継続予定のため、次年度以降も公募が実施される可能性があります。締切後は次回公募に向けた準備(GビズID取得・提案骨格の文書化・コンソーシアム組成等)を進めることを強くおすすめします。
補助金は事業費の一部(1/2や2/3など)を国が補助し、残りは自己負担です。一方、委託研究はNEDOが研究開発を「委託」する形態で、原則として研究開発費の全額がNEDOから支出されます。自己負担が少ない代わりに、研究成果に対するNEDOへの報告義務やNEDOの管理監督ルールに従う必要があります。
できます。特に水素関連の技術力を持つベンチャー企業や技術系中小企業は、大学や大企業とのコンソーシアムに参画する形での応募が効果的です。NEDOは中小企業の技術開発支援にも積極的で、実施体制の中での役割が明確であれば評価されます。
NEDO事業の多くは公募前から方向性が示されていて、事前に準備を進めている研究グループが多いです。公募要領公開後に一から提案を作り始めるのは現実的に困難です。NEDO技術戦略センター(TSC)の公開資料や関連プロジェクトの動向を日頃からウォッチし、提案の骨格を事前に固めておくことが重要です。
NEDO委託研究では「日本版バイ・ドール・ルール」が適用され、原則として知的財産権は受託者(研究実施機関)に帰属します。ただし、NEDOへの報告義務や、NEDOが指定する条件のもとでの実施許諾義務などが課される場合があります。詳細は公募要領の知的財産権条項を確認してください。
海外機関との共同研究が認められるかは公募要領の条件次第ですが、NEDO事業では国際共同研究の枠組みを設ける場合があります。ただし、主たる実施者は国内機関であることが一般的で、海外機関への委託費支出には制限がある場合があります。詳細はNEDOの公募担当に確認してください。
過去にNEDO事業を受託していなくても応募できますか?
できます。ただし審査では研究実施体制の確実性が評価されるため、関連する研究実績や技術的バックグラウンドの提示は重要です。初めてNEDO応募の場合、経験豊富な機関とのコンソーシアム参画から始めるのも一つの戦略です。
ありがとうございました! 水素サプライチェーンの技術開発に取り組む研究者や企業の皆さん、ぜひ挑戦してみてください。