室谷さん、環境省の「環境保全研究費補助金 フェーズ1(F/S・PoC)支援事業」ってどんな補助金なんですか? フェーズ1というくらいだから、最初の段階をサポートするやつですよね?
そうです! これはERCA(独立行政法人環境再生保全機構)が環境省から委託されて運営している補助金で、環境スタートアップの「事業化の出発点」にあたる採算性調査(F/S)と概念実証(PoC)を支援する制度 なんです。もともと令和3年度から始まったSBIR制度(Small/Startup Business Innovation Research)の一環ですね。
国が研究開発型スタートアップを専門的に支援するための制度です。科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律に基づいて、中小企業や個人研究者の研究開発支援に特化した補助金群のことをまとめてそう呼ぶんですよ。
なるほど。フェーズ1は「事業化の出発点」という話でしたが、具体的には何をする事業が対象なんですか?
環境保全に資する技術シーズの「採算性調査(F/S)」と「概念実証(PoC)」を行う事業 が対象です。英語だとFeasibility Study(実現可能性調査)とProof of Concept(概念実証)ですね。「このアイデアでビジネスになるか調べたい」「技術が実際に機能するか小規模で試したい」という段階を支援するんです。
ほー、まだ技術が完全にできていなくても応募できるということですか?
そうなんです! フェーズ3だとTRL(技術成熟度レベル)4以上が要件になるんですけど、フェーズ1はTRLの具体的な到達レベルの指定がなく、技術シーズの初期段階から応募できる んです。「アイデアはある、方向性も決まっている、でもまだ実証段階には入っていない」という企業や個人でも申請できます。
じゃあフェーズ2やフェーズ3との違いも気になるんですが、どう使い分ければいいんですか?
フェーズ 目的 対象 補助上限 補助率 事業期間 フェーズ1(F/S・PoC) 採算性調査・概念実証 環境スタートアップ企業 または 起業家 400万円 10/10(全額) 1年以内 フェーズ2(R&D)一般枠 実用化研究 環境スタートアップ企業 3,000万円(総額) 2/3 2年以内 フェーズ2 オープンイノベーション枠 大手企業との協業 環境スタートアップ企業 4,000万円(総額) 1/2 2年以内 フェーズ3(大規模実証) 大規模技術開発実証 環境スタートアップ企業 4億円(総額) VC出融資額の2倍以下 4年以内
え、フェーズ1って補助率が10/10つまり全額補助 なんですか!? これはすごくないですか?
そうなんです(笑)。フェーズ2以降は補助率が2/3とか1/2になるんですが、フェーズ1だけは全額補助。まだ収益がほとんどない初期スタートアップでも自己負担なく研究開発を進められるよう設計されているわけです。
ほんとに? 400万円が全額補助とは太っ腹ですね。じゃあフェーズ1と2と3を全部まとめた記事も見たいなと思ったら……
フェーズ1に応募できる人の要件を教えてください。「起業家」も応募できるって書いてありましたが?
フェーズ1だけの大きな特徴の一つが「個人の起業家」も代表事業者として申請できる 点なんです。フェーズ2と3は法人(環境スタートアップ企業)しか代表者になれないんですが、フェーズ1はまだ会社を持っていない研究者や個人でも申請できます。
条件はあって、「日本に居住し、事業を営んでいない個人(研究者等)であって、研究開発成果の事業化を目指す者」という定義になっています。起業前の研究者が自分の技術シーズを商業化できるか試したい、まさにそういうケースに対応しているんですよ。
なるほど。じゃあ企業として申請する「環境スタートアップ企業」の要件は何ですか?
# 条件 1 日本に登記されている未上場企業であること(登記前でも応募可能。ただし応募締め切り後2週間以内に登記が完了している必要あり) 2 環境省からの指名停止措置を受けていないこと 3 中小企業者に該当すること(科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律に基づく) 4 みなし大企業に該当せず、概ね15年以内に設立した中小企業者であること 5 事業実施責任者が不正行為等による競争的研究費制度への申請制限を受けていないこと
法人上は中小企業でも、実質的に大企業に支配されている企業のことです。具体的には、発行済株式の2分の1以上が同一の大企業に属している、3分の2以上が複数の大企業に属している、あるいは資本金5億円以上の法人に100%株式を保有されているケースが該当します。ベンチャーキャピタルからの出資でも、ファンドを通じた大企業の実質的支配があれば引っかかることもあるので注意が必要ですよ。
気をつけないといけませんね。フェーズ1は「起業家」と「環境スタートアップ企業」両方が応募できるということで、3分類があるんでしたっけ?
そうです。(ア)環境スタートアップ企業、(イ)起業家、そして(ウ)その他環境大臣の承認を得てERCAが適当と認める者の3分類です。グループ申請も可能で、複数の事業者が代表事業者・共同事業者という形でチームを組んで応募できます。
フェーズ1のみ、未法人化の個人「起業家」が代表事業者として申請可能。フェーズ2・3は法人(環境スタートアップ企業)が必須。起業直前段階の研究者に特有の制度設計となっている。登記前でも応募できるが、応募締め切り後2週間以内の法人登記完了が条件。
どんな技術分野が対象なんですか? 環境保全といっても範囲が広いですよね。
本事業では3つの主要領域に絞って公募しています。まず「気候変動領域」、次に「資源循環領域」、そして「自然環境保全領域」の3つです。
2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みが中心ですね。脱炭素ライフスタイルに関わる技術、地域での脱炭素技術やシステム改善、熱中症対策、都市のヒートアイランド現象の抑制技術、炭素蓄積・吸収量を簡易把握できる評価システムなどが例として挙がっています。
IT・AI・ビッグデータを活用した廃棄物処理技術や、海洋プラスチック対策、バイオマス活用、食品ロス削減・堆肥化技術 などです。サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を支援する技術であれば対象になりますよ。
生物多様性の保全や、NbS(自然を活用した解決策)に関する技術開発ですね。AIやリモートセンシングを活用した生物多様性のモニタリング技術、外来種防除技術、絶滅危惧種の個体数推定法なども対象です。
あ、でも「エネルギー起源CO2の排出抑制に資する研究開発」は対象外って聞きましたが?
よくご存知ですね! 化石エネルギーの使用に伴って発生する二酸化炭素削減に関わる研究開発は本事業の対象外です。それは別の事業(地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業)で支援しています。あと原子力関係も対象外ですね。
以下は本事業の対象外となる。
エネルギー起源CO2(化石エネルギー由来)の排出抑制に資する研究開発
エネルギーとしての利用に関する原子力にかかる技術
環境省を含む他の公募事業等により実施中の類似技術開発・実証事業との重複申請
交付要綱別表第1から第3に掲げる費用のうち、補助事業を行うために直接必要な経費が対象です。ポイントは「当該事業で使用されたことを証明できるもの」に限られる という点です。
対象外経費の例 理由 事業に直接かかわらない人件費 補助事業と無関係 既存施設の撤去・廃棄費用 補助事業の範囲外 補助事業期間外(交付決定前・事業完了後)の支出 期間限定 官公庁への申請・届出に係る経費 間接費 本補助金への応募・申請に係る経費 本補助金自体の申請費 予備設備や将来使用予定の設備購入費 現時点で不要
原則として設備等はリース・レンタルでの対応が求められます 。リースやレンタルが困難な設備については、応募申請書類に設備名・数量・理由を明記することで購入費が認められる可能性はありますよ。
なるほど。あと他の補助金と組み合わせることはできますか?
内容が類似している他の公募事業と重複申請はできません。ただし採択された後は、SBIR制度に基づく指定補助金等の受給者として、日本政策金融公庫の特別利率融資(新企業育成貸付制度)、特許料等の減免措置、国の入札への参加機会の特例措置といった追加的なメリットも受けられますよ。
項目 内容 補助上限額 400万円 補助率 補助対象経費の10分の10(全額) 補助事業期間 1年以内 (事業完了は令和9年2月28日まで)対象者 環境スタートアップ企業 または 起業家(個人可) 公募期間 令和8年5月12日(火)〜令和8年6月15日(月)14時まで 申請方法 e-Rad(府省共通研究開発管理システム)経由 採択通知予定 令和8年8月頃 実施機関 独立行政法人環境再生保全機構(ERCA) 問い合わせ erca-tmu[AT]erca.go.jp ([AT]を@に置換) 公式URL www.erca.go.jp/startup
6月15日の締め切りが迫っているんですね。今から動き始めても間に合いますか?
e-Radへの登録に最低2週間かかることを考えると、今すぐe-Rad登録を始めないと間に合わない可能性があります 。e-Radは一度登録すると他の公募でも使えるので、早めの登録をおすすめします。
1 e-Radへの事前登録(2週間以上前に必須)
企業情報、事業実施責任者・主たる事業実施者情報、研究インテグリティ情報を登録。登録には日数がかかるため締め切り2週間以上前に完了させること。フェーズ1で「起業家(個人)」として申請する場合は所属機関の登録は不要。
2 公募要領・応募書類のダウンロード
ERCAホームページから「フェーズ1 応募書類一式(ZIP)」をダウンロードし、[事業提案書]、[経費内訳書]、[基本情報及び自己申告シート]、[提出書類チェックシート]を準備する。
3 事業提案書の作成
技術シーズの新規性・革新性、事業化の見込み、環境保全への貢献、採算性調査・PoC計画を記載。フェーズ1特有の評価項目(①事業実施の重要性・必要性、②技術的新規性・革新性、③事業化・普及の見込み、④目標設定・達成可能性、⑤事業実施基盤)を意識して記述する。
4 e-Radに情報入力・提出(最低60分以上確保)
e-Radのポータルサイトにアクセスし、[基本情報]タブ・[研究経費・研究組織]タブ・[個別項目]タブ・[応募・受入状況]タブを入力。事業提案書をPDF形式でアップロード(30MB以下)。e-Radは24時間稼働だが、システムメンテナンスによる停止もあるため数日前に余裕をもって提出する。締め切りは令和8年6月15日(月)14時まで(厳守)。
5 ヒアリング対応(7月中旬〜下旬頃、必要に応じ実施)
ヒアリング審査が行われる可能性がある期間は予定を空けておくこと。通知は約5日前。ヒアリング不参加の場合は不採択になることがある。形式はWEB方式。
6 採択通知・交付決定(8月頃)
採択通知後に交付申請書をERCAに提出。交付決定通知書受領後に事業開始。概算払い制度あり。
7 事業実施・完了報告(令和9年2月28日まで)
補助事業期間内(交付決定日〜令和9年2月28日)に事業を完了し、完了実績報告書を提出。書類審査・必要に応じて現地調査の後、補助金額が確定する。事業完了後1年間、事業報告書の提出義務あり。
フェーズ1 申請の流れ(e-Rad経由)
e-Radの入力に最低60分かかるとは知りませんでした。ギリギリになると大変ですね。
締め切り直前にシステムが混み合うこともある ので、数日前には提出を完了させておくのが鉄則です。提出後はe-Rad上で「受理済」のステータスを必ず確認してください。「配分機関受理待ち」「受理済」「配分機関処理中」のいずれかになっていれば安心です。
どんな観点で審査されるんですか? 採択されるためのコツはありますか?
評価項目 内容 ポイント ①事業実施の重要性・必要性 環境保全の観点からの重要性・課題解決の見通し なぜ今この技術が必要かを論理的に記述 ②技術的新規性・革新性等 従来技術に対する新規性・優位性・革新性 既存技術との差別化を定量的に示す ③事業化・普及の見込み 市場規模・技術的・経済的優位性・早期実現可能性 市場規模を数字で示す。海外展開も考慮 ④目標設定・達成可能性 課題の明確性・定量的目標・実現可能な内容 KPIを具体的数値で設定する ⑤事業実施基盤 スケジュールの適切性・技術基盤・実施体制 事業完了(令和9年2月28日)までの具体計画
フェーズ1はF/S・PoCという「実現可能性の検証」段階なので、③事業化・普及の見込みと④目標設定・達成可能性をどれだけ定量的に書けるか が差を生みます。「採算性調査をして参入可能性を判断する」だけでは弱くて、「どのような市場規模(例えば2030年に○○億円規模のXX市場)にアプローチし、F/S・PoCで何をKPIとして検証するか」まで書いてほしいんです。
令和7年度のフェーズ1採択例を紹介しますと、「廃棄おからを利活用した健康素材開発事業(株式会社オカラテクノロジズ)」「再生困難な廃プラを原料とした車体材料品質マテリアルリサイクルプラスチックの事業化に関するFS事業(株式会社プラーツ)」「糸島のワイナリー・ビール残渣等を活用した資源循環モデルの構築(矢部光保氏)」といった案件が採択されています。
なるほど、廃棄物活用やサーキュラーエコノミー系が目立ちますね。個人申請の採択例もあるんですね! 令和7年度のフェーズ1の採択件数は何件でしたか?
令和7年度は15件の申請があり、フェーズ1で3件が採択されたことが環境省のプレスリリースで確認できます。採択率から見ると採択された割合は限定的ですが、しっかり事業化の道筋を示せれば十分チャンスがある制度です。
定量的なKPI設定 : 「採算性が取れるかを調査する」ではなく「2026年度末までに黒字化可能な単価○円・販売量○個を検証し、FCF回収期間を算定する」レベルの具体性で書く。
事業化ロードマップの提示 : フェーズ1採択後にフェーズ2(R&D)へ進む想定を示すと評価が高まる。ERCA側も「フェーズ1→2→3」のキャリアパスを期待している。
技術の独自性の明確化 : 既存技術との差別化ポイントを特許出願状況・学術論文・実証データ等で裏付ける。一般的な「新技術です」は審査で弱い。
採択されたら補助金がもらえるだけですか? それ以外のサポートはありますか?
それだけじゃないんですよ! 採択された事業者には「事業コーディネーター(BC)」という伴走支援の専門家が配置 されます。技術の事業化に豊富な知見を持つ方が担当について、技術開発計画・事業化計画・資金調達・販路開拓・スケールアップまでを継続的にサポートしてくれます。
さらに、SBIR制度の指定補助金等を受給した研究開発型スタートアップとして、日本政策金融公庫の特別利率融資(新企業育成貸付制度)を使えるようになったり、特許料の減免措置、国の入札参加の特例措置といった「SBIR特権」も受けられます。
そうか、補助金を受けること自体が信用の証明になるんですね。次のフェーズへの足がかりにもなると?
まさにです! フェーズ1でF/S・PoCを完了させると、その成果を携えてフェーズ2(R&D)に進む道が開けます。フェーズ2のSBIR連結型では、フェーズ1の成果を踏まえた実用化研究が対象になるくらい、フェーズ間の連続性が設計されています。
はい、よく出る質問をまとめますね。まず「登記前でも応募できますか?」という声が多いんですが。
登記前でも応募は可能です 。ただし、応募締め切り後2週間以内に登記が完了している必要があります。2026年6月15日が締め切りなので、遅くとも2026年6月29日までの登記完了が条件です。
なるほど。じゃあフェーズ1に採択された後、そのままフェーズ2にも応募できるんですか?
できます! フェーズ1で採択・事業完了した後、フェーズ2へ応募することが制度上想定されています。ただし別年度の公募への応募になるため、翌年度の公募情報を都度確認するようにしてください。
グループで申請することはできますか? 共同研究者がいる場合とか。
可能です。研究開発成果の事業化の主体となる者が「代表事業者」、共同研究に参画する者が「共同事業者」として申請します。フェーズ1のみ、起業家(個人)が共同事業者になることも可能ですよ。
採択後に研究の方向性が変わったら、計画変更はできますか?
計画変更が生じる場合は、必ずERCAに事前相談し、計画変更承認申請書を提出する必要があります。事後報告では補助対象外になる可能性があるので、迷ったらまずERCAに連絡するのが鉄則です。
概算払い制度があるので、交付決定後に概算払請求書を提出すれば先払いも可能です。最終的な確定額は完了実績報告書提出後の書類審査・現地調査を経て確定します。
公募締め切りは令和8年6月15日(月)14時。e-Radへの企業・個人情報の登録には最低2週間かかる場合があります。今から逆算すると、2026年6月1日(月)頃が登録の安全ラインです。これを過ぎると申請自体ができなくなるリスクがあります。e-Radポータルサイト からすぐに登録を始めてください。
環境省のフェーズ1以外にも、研究開発型スタートアップが使える補助金はあるんですか?
ありますよ! 環境省のSBIR枠と比較すると特徴がよく分かります。
SBIR推進プログラムは内閣府主導の分野横断型で、経済安保・デジタル・医療など環境以外の分野も対象になります。環境省のこの制度は「環境保全」に完全特化しているためテーマが絞られている反面、環境系の審査官に評価してもらいやすい という強みがあります。環境技術を持つスタートアップなら、まずERCA経由の本制度から検討するのがおすすめです。
そういう使い分けが大事なんですね。フェーズ1→2→3の連続採択を狙う場合はどんな戦略がいいですか?
フェーズ1でF/S・PoCの成果を明確に定量化しておくことが最重要です。「採算性が見込める」と数字で示せた事業者が優先的にフェーズ2に進みやすい設計になっています。フェーズ1採択と同時に、フェーズ2の公募スケジュールも把握しておくと戦略的に動けますよ。
最後に、「フェーズ1に申請しようか迷っている」という環境スタートアップの方へメッセージをお願いします!
フェーズ1は補助率10/10・上限400万円という非常に手厚い条件 で、しかも未登記の個人起業家でも申請できる、本当に「入口」向けに設計された補助金なんです。F/S(採算性調査)やPoC(概念実証)というのは、事業の成否を決める最も重要なフェーズでありながら、まだ収益がない段階で自己資金を投じる必要があるためハードルが高い。この制度はそのハードルを下げるための国の仕組みです。
まず3つです。1つ目は今すぐe-Rad登録を開始すること。2つ目はERCAのホームページから公募要領(PDF)と応募書類をダウンロードして、評価項目をチェックすること。3つ目はerca-tmu[AT]erca.go.jpへのメール件名冒頭に「【スタートアップ公募問合せ】」と書いて、疑問を問い合わせること。公募説明会(令和8年5月22日)への参加もかなり役立ちますよ。
説明会があるんですね! ぜひ参加したい。詳細はERCAのサイトで確認できますか?
独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進部 技術管理活用課
メール: erca-tmu[AT]erca.go.jp ([AT]を@に置換してください)
件名冒頭に「【スタートアップ公募問合せ】」と記載。公式窓口ページ からも問い合わせ情報を確認できます。