室谷さん、今日は「GXサプライチェーン構築支援事業(事業Ⅰ:浮体式等洋上浮力発電設備)」の事前着手届出について聞かせてください。タイトルに「事前着手届出」って書いてあるんですけど、これって普通の補助金申請とは違うんですか?
そうなんですよ!(笑)これ、多くの方が最初に混乱するポイントなんです。普通の補助金は「採択→交付決定→事業スタート」という順番ですよね。でも浮体式洋上風力の製造設備って、発注してから納入まで18ヶ月から24ヶ月かかる大型設備が多くて、交付決定を待っていたらプロジェクトのスケジュールに間に合わないケースが出てくる。
大型溶接ロボットや鍛造プレス、浮体基礎製造設備なんかは特殊品なので、そのくらいかかるのが普通です。だから経済産業省が「事前着手届出」という特例を作ったんですよ。届出を出して事務局に受理されれば、交付決定前でも事業を着手(設備発注)できる制度です。
えっ、交付決定前に動いていいんですか!それはすごい。でもリスクはないんですか?
リスクは当然あります。応募申請で不採択になったら、事前着手で発生した費用は全額自己負担になります。だからこの届出を出すかどうかは、スケジュールの緊急性と不採択リスクを天秤にかけた経営判断が必要で。
GXサプライチェーン補助金 事前着手届出フロー比較
整理させてください。Jグランツのページには公募が2つあって、「事前着手届出」(補助金番号66650)と「応募申請」(補助金番号66651)があるんですよね。これはどういう関係なんですか?
本事業は2つの手続きが並行して動いているんです。
「事前着手届出」はあくまでも届出であって、補助金申請ではありません。補助金を受けるには、別途「
応募申請」への申請が必要です。両方の手続きを並行して進めるのが前提の設計になっています。
じゃあ事前着手届出だけ出しても補助金はもらえないってことですか?
そのとおり!(笑)届出だけ出して応募申請を忘れる人が出てくるといけないので、ここは強調しておきたいです。事前着手届出は「先に動いていいですか?」という許可申請で、「補助金ください」というのは応募申請のほうです。
両方とも2026年5月12日(火曜日)正午が届出・申請の期限です。事前着手届出の受付期間は2026年3月27日から5月12日正午まで。ここを過ぎると一切受け付けてもらえないので、今の時点ではまだ間に合います。急いで準備を進めてください!
次に対象事業について教えてください。「浮体式等洋上浮力発電設備」っていうタイトルですが、具体的にどんな製品を作る事業者が対象なんでしょうか?
事業Ⅰは浮体式等洋上風力発電設備の生産に係る設備投資です。公募要領の表1に製品品目が詳しく載っていて、ざっくり言うと次のようなものです。
| 製品品目 | 概要 | 生産開始年限 | 最低製造能力目標 |
|---|
| ブレード | 風車の回転翼 | 2030年度 | 100基分/年 |
| タワー | ナセルを支える柱 | 2030年度 | 30基分/年 |
| ナセル | 発電機等を格納する本体 | 2030年度 | 100基分/年 |
| 軸受 | 各部を支持する軸受 | 2030年度 | 100基分/年 |
| 係留索・係留チェーン | 海底に繋ぎとめるロープ | 2030年度 | 30基分/年 |
| アンカー | 係留索の海底固定具 | 2030年度 | 30基分/年 |
| 浮体基礎 | タワーを支え洋上で浮く土台 | 2030年度 | 20基分/年 |
結構いろんな部品が対象なんですね!洋上風力発電の設備をまるごと国産化しようということですか?
まさにそうです。2030年度までに各品目の製造能力の最低水準を達成することが要件になっています。ただし設備機械装置の購入は必須で、設備購入を伴わない事業は対象外になります。あと、完成品の対象が基本なので、例えば浮体基礎を構成する部材の一部だけ作るケースは対象外になる可能性があります。
はい。採択決定日より前に投資の決定を対外発表した事業でないこと、間接補助事業終了後5年間以上は当該製品の生産を継続すること、などが求められます。世界トップクラスを目指した野心的な目標を対外的に掲げることも条件のひとつですよ。
GXサプライチェーン補助金 補助率一覧
補助率について教えてください。Jグランツのページでは「公募要領をご参照ください」としか書いてないんですが、実際はどうなんですか?
実は結構複雑な仕組みになっていて(笑)。基本的には「補助対象経費の原則1/3以内または1/2以内」なんですが、GX実現に向けた野心的な取組と認められると引き上げられます。
| 企業区分 | 原則補助率 | GX野心的取組の場合 |
|---|
| 大企業 | 1/3以内 | 1/2以内 |
| 中小企業等 | 1/2以内 | 2/3以内 |
2つ条件があって。①その製品の商用目的の生産設備が国内に一つも存在しないこと、②製品の市場投入の時期や量・性能において国際競争力を十分に有すると認められること。この両方を満たす場合に補助率が引き上げられます。浮体式洋上風力では国内に製造拠点がない品目が多いので、多くのケースで高い補助率が適用される可能性があります!
上限額はありません(限度額なし)。もちろん補助対象経費として認められた金額に補助率を乗じた金額が補助されるんですが、数百億円規模の投資案件でも補助金の上限で打ち切られることはないということです。事業の予算総額は約833億円で、令和11年度までの国庫債務負担を含むものです。
国が本気でGX産業を育てようとしているのがわかる数字ですよね。ただし補助金の支払いは原則として事業終了後の精算払なので、先に自社で投資して後から補助金を受け取るという流れになります。資金調達の計画もセットで考える必要があります。
まず日本国内に登記された法人であること、国内に事業実施場所を有していること。それと温室効果ガス排出削減への取組が重要な要件になっています。
排出削減の取組?補助金申請なのにかなり本格的な条件ですね。
GX(グリーントランスフォーメーション)推進の補助金ですから、当然といえば当然ですよね(笑)。具体的には2026年度以降のGXフューチャー・リーグへの参加と排出量実績の報告、2030年度についての国内Scope1・Scope2の排出削減目標設定と毎年の報告・公表が求められます。ただし、2022年度のCO2排出量が20万トン未満の企業や中小企業については、その他の排出削減取組の提出で代えることができます。
中小企業でも申請できますよ!中小企業等の補助率は最大2/3以内で、大企業より優遇されています。造船・鉄鋼・機械製造など、浮体式洋上風力の部品製造に強みを持つ中小メーカーにとっては大きなチャンスです。
- 日本国内に登記された法人であること
- 国内に事業実施場所を有していること
- 浮体式等洋上風力発電設備の生産に係る設備投資等を行う事業であること
- 設備機械装置の購入(改造等を含む)を必須とする事業であること
- GXフューチャー・リーグへの参加(または同等の排出削減取組)を実施すること
- 2030年度の製造能力目標の最低水準を達成できる計画であること
- 第三者委員会の面接審査に代表権を有する者が対面参加できること
では、実際に事前着手届出を出す場合の流れを教えてください。
まず前提として、事前着手が必要かどうかを見極めることが大事です。交付決定後でも事業スケジュールに支障がなければ、リスクを取って事前着手する必要はありません。事業スケジュールをしっかり精査してから判断してください。
1設備発注リードタイムを確認する。交付決定を待てない合理的な理由(設備の発注から納入まで12ヶ月以上かかる等)があるか確認します。
2経営層への不採択リスクの共有。不採択になった場合、着手済みの事業費が全額自己負担となるリスクを経営層と共有し、事前着手の意思決定を行います。
3GビズIDプライムを取得する(未取得の場合)。Jグランツから申請するにはGビズIDプライムが必要です。取得には2〜3週間かかるため、早めに手続きを開始してください。
4届出書類を作成してJグランツで提出する。着手する事業の内容、着手時期、早期着手が必要な理由を記載して2026年5月12日正午までに提出します。
5事務局による受理判断の通知を待つ。事務局が緊急性・必要性があると判断した場合に受理します。受理されたら、通知に記載の「事前着手開始日として認める日」以降に事業を開始できます。
6事業着手と同時に応募申請も提出する。事前着手届出と並行して、応募申請(番号66651)も2026年5月12日までに提出します。
7経費の厳格な管理を開始する。事前着手開始日以降の全経費を補助金の会計基準に準じて管理します。発注書・請求書・領収書などを厳格に保管してください。
いくつか重要な点があります。届出日より前に発注した経費は補助対象外になります。「受理通知に記載の事前着手開始日として認める日」より前の発注は対象外ですし、発注先への内示も発注とみなされるので要注意です!
製品製造に必要な設計費、建物等取得費、設備費、システム整備費が対象です。
| 経費区分 | 具体例 | 補助率 |
|---|
| 設計費 | 機械装置・建物・システムの設計 | 原則1/3〜2/3以内 |
| 建物等取得費 | 工場の新設・建て替え・リフォーム | 同上 |
| 設備費 | 製造設備の購入・製造・附帯工事 | 同上 |
| システム整備費 | 設備稼働に直接必要なソフトウェア | 同上 |
補助対象外になるものも結構あるので注意が必要です。
- 交付決定日より前に発注・購入・契約したもの(事前着手受理済みの場合を除く)
- 人件費(設計費・設備費に関連する労務費を除く)
- 土地やオフィス用建物の取得費・整備費
- 環境アセスメント等の調査費用
- 外構工事費、既存建物・設備の撤去費・移設費
- 消費税及び地方消費税
- 飲食・奢侈・娯楽・接待費用
- 汎用性があるコンピュータ・プリンタ等
- 自動車等車両の購入費(ただし事業所内専用で公道不走行のものは除く)
環境アセスメントの調査費用が対象外というのは痛いですね。
そうですね。港湾ヤード整備では環境アセスメントに2年以上かかる場合もあるので、この部分は自己資金での対応が必要です。ただ、事前着手届出を使って環境手続きと本体工事を並行して進めることで、全体スケジュールを短縮できる効果はあります。
一番重要なのは事前着手の必要性を数字で説明できることです。「なぜ交付決定を待てないのか」を、具体的な設備名・納入リードタイム・プロジェクト納期などで定量的に示す必要があります。
- 定量的な緊急性の説明: 設備の発注から納入まで18ヶ月かかる、という具体的な数字でスケジュール制約を示す
- リスク管理計画の明示: 不採択時の対応計画(自己資金での継続、事業縮小のトリガー条件等)を社内で策定しておく
- 応募申請との一貫性: 事前着手届出の内容と応募申請の事業計画に矛盾がないよう同一チームで作成する
- 経費管理体制の事前構築: 届出日以降の全経費を補助金の会計基準に準じて管理する体制を着手前に完成させる
そうなんですよ。第三者委員会が実施する面接審査に代表権を有する者が対面参加することが必須です。補助金の採択審査で社長が直接審査を受けるというのは、それだけ本事業が重要な産業政策だということを示していますよね。グローバルな競争力を持つ事業計画を代表者自らが説明できる状態にしておく必要があります。
いくつかあります。まず大きな勘違いとして、事前着手届出を出して受理されたら補助金がもらえると思う人がいること。さっき言ったとおり、届出と申請は全く別の手続きですから。
発注のタイミングです。「事前着手受理通知に記載の事前着手開始日」より前に発注した経費は補助対象外。これ、見落としがちなんです。通知を受け取っても、通知に書かれた開始日より前に動いた分はダメです。発注先への内示も発注とみなされるので、口頭での打ち合わせでも「発注内示」と取られかねない状況には注意が必要です。
- 事前着手届出を出しただけで安心して応募申請を忘れる
- 「事前着手開始日として認める日」より前に設備を発注する
- 発注先への非公式な内示を発注行為として見落とす
- 他の国庫補助金で支出した経費を本事業でも申請する(二重計上禁止)
- 3者見積を取らずに随意契約で発注する(補助対象外となる可能性あり)
3者見積の話が出ましたけど、これ本当に厳格に守らないといけないんですか?
はい。補助金のルールでは同じ仕様で3者見積を取り、価格競争で発注先を選ぶことが原則です。合理的な理由なく随意契約した場合は原則として補助対象外となります。過去の取引実績に基づく随意契約も原則認められないのでご注意ください。
では最後にこの補助金の基本情報を整理してもらえますか?
| 項目 | 内容 |
|---|
| 制度名 | 令和7年度補正 GXサプライチェーン構築支援事業(事業Ⅰ:浮体式等洋上風力発電設備) |
| 届出・申請受付 | 2026年3月27日〜2026年5月12日(火)正午 |
| 対象事業者 | 浮体式等洋上風力発電設備の製造に係る設備投資を行う国内法人 |
| 補助率 | 大企業1/3〜1/2以内、中小企業等1/2〜2/3以内 |
| 補助上限額 | なし(限度額なし) |
| 事業予算 | 約833億円(令和11年度までの国庫債務負担含む) |
| 事業期間 | 令和11年12月31日まで |
| 実施機関 | 経済産業省、GXSC補助金事務局 |
| 事前着手届出 | Jグランツから提出(こちら) |
| 応募申請 | 別途Jグランツから提出(番号66651) |
| 問い合わせ | GXSCお問い合わせフォーム(受付:平日) |
| 公式サイト | 2026.gxsc-hojo.jp |
予算833億円に補助上限なし…本当に規模が大きい制度ですね。浮体式洋上風力の国産化に本気で取り組んでいる企業には絶好のチャンスですね。
まさに!日本の製造業の強みを活かせる数少ない分野ですし、2030年度を生産開始目標にしているということは、今から設備投資に動かないと間に合わない。そういう意味でも事前着手届出の制度は非常に重要な役割を果たしています。
本事業と直接関連するのは、同じGXサプライチェーン構築支援事業の「応募申請」枠ですね。今日解説した事前着手届出は必ずこれとセットで手続きします。
| 補助金名 | 補助内容 | リンク |
|---|
| 【応募申請】GXサプライチェーン構築支援事業(事業Ⅰ) | 浮体式等洋上風力製造設備投資の本申請 | 詳細はこちら |
| 【事前着手届出】令和7年度 GXサプライチェーン構築支援事業(事業Ⅲ:浮体式等洋上風力発電設備) | 令和7年度分の浮体式洋上風力設備投資の事前着手届出 | 詳細はこちら |
| 【事前着手届出】令和7年度補正 GXサプライチェーン構築支援事業(事業Ⅱ:ペロブスカイト太陽電池) | ペロブスカイト太陽電池製造設備投資の事前着手届出 | 詳細はこちら |
事前着手届出の話が聞けてよかったです。今回のポイントをまとめると、事前着手届出は応募申請とは別の手続きで、届出だけでは補助金はもらえない。でも交付決定前に事業を着手できるので、設備リードタイムが長い浮体式洋上風力分野には重要な制度ということですね。
その理解で正しいです!(笑)締切の2026年5月12日まで時間があるので、設備発注リードタイムの精査、経営層への不採択リスクの共有、GビズIDの取得を急いで進めてください。今の段階から動けば十分間に合います。