室谷さん、「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業助成金(一般コース)」って、名前が長くて最初ちょっとひるんだんですけど、これ一言で言うとどんな制度ですか?
そうですよね(笑)。シンプルに言うと、「東京都の中小企業が既存事業を深化・発展させるための助成金」です。コロナ後に消費者行動が大きく変わりましたよね。デリバリーが定着したとか、オンラインでの購買が増えたとか。そういった市場環境の変化に対応して、これまでの事業をもっと強くしていくための投資を、東京都中小企業振興公社が後押しする制度です。
「既存事業を深化・発展させる」というのが肝なんですね。新しいビジネスを立ち上げる、というわけじゃない。
そこが大事なポイントです。「全く新しい事業への参入」ではなく、「今やっていることをさらに強化する」取組が対象です。たとえば飲食店がデリバリー対応のためにキッチン設備を増強するとか、製造業が高精度な加工機を入れて受注できる部品の幅を広げるとか、そういうイメージですね。
助成上限が800万円で、助成率は対象経費の3分の2以内です。ただし賃金引上げ計画を策定・実施した場合は助成率がさらに上がって、中小企業者は4分の3以内、小規模企業者は5分の4以内になります。
賃金を上げると助成率も上がるんですか!それはかなり有利ですね。
そうなんです。たとえば600万円の事業を計画した場合、通常なら助成額は400万円(3分の2)ですが、賃金引上げ計画ありの小規模企業者なら480万円(5分の4)まで受け取れる計算になります。人への投資と設備投資を同時に進めたい事業者にとって、特に恩恵が大きい設計になっています。
誰でも申請できるわけじゃないですよね。どんな会社が対象になりますか?
基本要件は「東京都内で事業を行う中小企業者(個人事業主含む)」です。法人・個人を問いません。ただし中小企業の定義があって、業種によって資本金や従業員数の上限が変わります。
特定業種に限らず、製造業、小売業、サービス業、飲食業など幅広い業種が対象です。業種横断的に使える汎用的な制度なのがこの助成金の大きな特徴です。ただし東京都内に事業所があることが絶対条件です。
「アシストコース」という別コースもあると聞いたんですが。
ありますよ。一般コースとアシストコースの2種類あって、アシストコースは小規模企業者向けです。大事な注意点として、一般コースとアシストコースの併願は不可なので、どちらか一方を選ぶことになります。自分の会社の規模に合ったコースを選んでください。
東京都内で事業を営む中小企業者(個人事業主を含む)で、以下の全てを満たすこと。業種により資本金または従業員数で中小企業者に該当すること。申請書に定める要件(過去の助成金受給状況等)を満たすこと。一般コースとアシストコースの同時申請は不可。
何に使えるのかが気になります。対象経費を具体的に教えてもらえますか?
大きく分けると5つのカテゴリがあります。まず「設備投資費」として機械装置の購入・リース費、ITシステムやソフトウェアの導入費、店舗・事業所の改装費が挙げられます。
使えます。「システム等導入費」として基幹システム・予約システムの導入も対象です。次に「販路開拓費」として展示会への出展費、広告宣伝費、ECサイトの構築・改修費なども入ります。さらに「人材育成費」として研修・セミナー受講費や専門家指導費、「外注・委託費」としてデザインやコンテンツ制作、コンサルティング費用も対象です。原材料費や産業財産権の出願費なども含まれます。
いくつか注意が必要なものがあります。人件費(自社従業員の給与・賞与)は対象外です。これは多くの補助金・助成金共通の注意点です。あとは土地・建物の取得費、事業開始前(交付決定前)に発生した経費、他の助成金等で補填される経費なども対象外になります。
交付決定は令和8年6月下旬予定です。この日より前に発注・購入した経費は一切助成対象外になります。「採択されそうだから先に機器を買っておこう」は厳禁です。交付決定通知を受け取るまで、対象経費の支出を始めてはいけません。
そうです。「市場調査費」「専門家指導費」「販売促進費」「その他経費」の単独申請は不可というルールがあります。これらを申請するには、他の経費(設備費や委託費等)と組み合わせた計画でないといけません。また既存事業にかかる販売促進費も対象外です。あくまで「事業の深化・発展」に直結する経費であることが求められます。
募集要項・申請書のダウンロード
東京都中小企業振興公社の公式サイト(https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/kankyo-ippan/index.html)から令和7年度版の申請書をダウンロードします。令和6年度版は使用不可なので注意。
GビズIDの取得
申請にはJグランツを使うため、GビズIDプライムアカウントの取得が必須です。未取得の場合、取得に数週間かかることがあるので早めに手配してください。
経営基盤強化計画の策定
既存事業をどう深化・発展させるかの具体的な計画を策定します。目標数値、実施スケジュール、必要経費の積算を明確にします。アドバイザー活用の計画も盛り込めるとよいです。
申請書類の作成・提出
Jグランツ経由で電子申請します。受付期間は令和8年3月2日(月)9時〜3月13日(金)16時。この期間外の提出は受け付けられません。
審査・交付決定
提出された申請書に基づき審査が行われ、令和8年6月下旬に交付決定予定。交付決定後、最大1年間の助成対象期間が始まります。
事業実施・経費支出
交付決定後に対象経費を支出して事業を実施します。取組前後にアドバイザーの助言を受けることもできます。
実績報告・精算
助成対象期間終了後、実績報告書を提出して助成金を受け取ります。
そうなんです。3月2日から3月13日の約2週間です。この期間は非常に短いので、年明けには申請書類の準備を始めるくらいのスケジュール感が必要です。直前に慌てて書き始めると間に合わない可能性がある。
審査はどういう観点で見られるんですか?採択されるためのコツがあれば教えてほしいです。
まず大事なのは「既存事業との明確な連続性」です。今やっている事業と、今回取り組む計画の論理的なつながりを審査官に伝えること。「なぜ今この取組が必要なのか」を市場環境の変化と絡めて説得力ある形で説明できるかが評価の分かれ目です。
その通りです。次に重要なのが「具体的な数値目標の設定」です。「売上を上げたい」ではなく「取組後1年で新規顧客を20社獲得し、売上を15%増やす」くらい具体的に書けると審査評価が上がります。数値根拠があることで計画の実現可能性が高く評価されます。
はい。投入する経費に対してどれだけの事業効果が見込めるかを数値で示すことも重要です。「800万円の設備投資で年間1,500万円の売上増加が見込める」という計算を丁寧に示せると、助成金の有効活用として好評価につながります。
既存事業との論理的な連続性を明確に示す。取組成果を測定できる具体的なKPIを設定する。投入経費に対する事業効果(ROI)を数値で説明する。可能であれば賃金引上げ計画を策定して助成率アップを狙う。
アドバイザー支援についても申請書に書いたほうがいいんですか?
積極的に活用する姿勢を示すのは有効です。「取組前にアドバイザーから事業計画の妥当性について助言を受ける」「取組後に改善点についてフィードバックをもらう」という計画を盛り込むことで、計画の実効性と改善へのコミットメントを示せます。
どんな業種の会社が特にこの助成金を活用しやすいですか?
この制度は業種横断的ですが、特に活用しやすいのは製造業と卸売・小売業です。製造業なら生産設備の更新やデジタル化による既存製造事業の深化に直結します。品質向上や生産性改善に幅広く活用できますよ。
飲食業も活用しやすいです。店舗改装、デリバリー対応の設備導入、予約システムの導入など、コロナ後の変化に対応するための投資に向いています。宿泊業も同様で、サービスの高付加価値化やデジタルマーケティング強化に使えます。
自社のIT事業基盤の強化、新技術の導入、セキュリティ対策の高度化などに活用可能です。自社サービスを深化させるための開発投資も、計画次第で対象になりえます。建設業や医療・福祉も施工管理のデジタル化やICT化が対象になりやすいですね。
| 業種 | 活用しやすさ | 主な活用例 |
|---|
| 製造業 | 非常に高い | 加工機の更新、検査工程デジタル化、品質管理システム導入 |
| 卸売・小売業 | 非常に高い | EC強化、在庫管理システム導入、店舗改装 |
| 宿泊・飲食業 | 高い | キッチン設備増強、予約システム導入、多言語対応 |
| 情報通信業 | 高い | 自社サービス基盤強化、セキュリティ高度化 |
| 生活関連サービス | 高い | サービス高付加価値化、デジタルマーケティング強化 |
| 建設業 | 普通 | 施工管理DX、安全管理体制強化 |
| 医療・福祉 | 普通 | 介護記録ICT化、業務効率化システム導入 |
似たような補助金と比べると、どういう特徴がありますか?
まず国の
小規模事業者持続化補助金と比べると、上限額が大きく違います。持続化補助金は最大250万円ですが、この経営基盤強化は800万円まで。規模の大きな設備投資には東京都の制度が向いています。
対象経費が重複しなければ組み合わせは可能です。たとえば大型設備はこちらの助成金で、小規模な広報費は持続化補助金で、という使い分けも考えられます。ただし同一経費への二重申請は禁止なので、経費の仕訳を明確にしておく必要があります。
ものづくり補助金は製造業・サービス業が設備投資や試作品開発を行う際に使えて上限2,500万円と大きいです。一方でものづくり補助金は「革新的な製品・サービス開発」が要件なのに対して、この経営基盤強化は「既存事業の深化・発展」でOKなので、革新性を求められない分、申請のハードルが相対的に低いと言えます。
いくつか確認したいことがあります。まず、令和6年度の申請書は使えますか?
使えません。令和7年度の「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(一般コース)」の申請書を必ず使ってください。前年度の「新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業」の申請書も使用不可です。申請書のバージョンが違うだけで書類不備として処理される可能性があるので注意してください。
申請自体はできます。賃金引上げは必須要件ではなく、あくまで「実施した場合に助成率が上がる優遇措置」です。賃上げなしでも対象経費の3分の2(上限800万円)は受け取れます。賃上げ計画の策定・実施が難しい状況であっても申請を諦める必要はありません。
できます。東京都内で事業を行う個人事業主も、中小企業者としての要件を満たしていれば対象です。法人・個人を問いません。
絶対にいけません。交付決定前に発生した経費は全て対象外です。令和8年6月下旬の交付決定を待ってから支出を始める必要があります。採択可能性が高そうだからといって先行発注するのは厳禁です。
はい、取組前後のアドバイザー支援は本助成金の支援の一環として受けられます。経営計画の策定段階から実施後の振り返りまで、専門家の知見を活用できます。申請書に記載したアドバイザー活用の計画に沿って進めることになります。
申請受付が3月2日〜3月13日で、交付決定が6月下旬予定なので、約3〜4ヶ月かかります。その間に設備の発注や改修の段取りを進めることはできないので、資金繰り計画を立てるときは注意が必要です。助成金は後払いなので、交付決定後に自己資金で先行投資して、実績報告後に精算を受ける流れになります。
たくさん教えていただいてありがとうございました。最後に、この助成金を活用する上で一番大事なことを一言でいうと?
「変化に対応した必然性のある計画を数字で語れ」に尽きます。コロナ後に市場環境がどう変わったのか、その変化にどう対応する必要があるのか、そのために何に投資するのかを論理的に数値で示せるかどうかが採択の分かれ目です。「補助金があるからとりあえず申請する」ではなく、「このタイミングでこの投資が経営上必要だ」という確信を持って臨んでください。
そうです。東京都中小企業振興公社(TEL: 03-4446-2560)に事前相談するのもありですよ。募集要項のダウンロードや詳細確認は
公社の公式ページから。Jグランツ経由で電子申請する際はGビズIDの取得を先に済ませておくことも忘れずに。